湘南の惜敗にパワハラ疑惑で指揮官不在の影響はあったのか?
後半12分には左コーナーキックからの2次攻撃から、松田が正確無比なクロスをファーサイドへ供給。DF坂圭祐(24)の強烈なヘディングシュートはDF金井貢史(29)にゴールライン上でクリアされたが、誰よりも早くこぼれ球に反応した古林が頭で押し込んでゴールネットを揺らした。 試合中に円陣を組んだことで何が変わったのか。2016シーズンに桐蔭横浜大から加入し、翌シーズンにそれまでのサイドアタッカーから3バックの右へ青天の霹靂にも移るコンバートを果たし、以来、レギュラーの座をがっちりとキープしている山根視来(25)が舞台裏を明かす。 「曹さんには昨シーズンから、試合中に僕たち選手だけでしっかり判断しろ、と言われていました。今日も2点を取られた後に、誰に言われるわけでもなく、ピッチのなかで自分たちだけで問題を解決することをちょっとずつですけどできるようになった」 ベルマーレで初めてJクラブのトップチームを率いた曹監督は、当初の自分を「選手との関係を親と子どもにたとえれば、僕はまぎれもなく子離れできない過保護なダメ親だった」と、これまでに出版した2冊の著書で振り返っている。 「選手たちがつまずきそうだと感じれば、問題や課題を克服するための処方箋やヒントだけでなく、場合によっては答えも与えてしまう。自立をうながしたい、可愛い子には旅をさせたいと何度も言い聞かせながらも、肝心な場面で手を貸してしまう自分を咎めたことも少なくない」 サッカーは試合中にタイムをかけることができない。ベンチ前から指示を飛ばそうにも限界がある。だからこそ、自立性や自主性が求められる。指揮官自らが子離れを決意した証が、昨シーズンに端を発した選手たちへのアプローチのちょっとした変化だった。
図らずも曹監督が初めて不在となった一戦で、ベルマーレの選手たちは積み重ねられてきたサッカーを思い出した。相手を上回る走力をベースに、味方をどんどん追い越して敵陣へなだれ込む。守備では前へ、前への姿勢を忘れず、積極果敢にインターセプトを狙う。 いつしか「湘南スタイル」と呼ばれた戦い方の、まさに一丁目一番地が思い出されたなかで、曹監督の薫陶を受けた選手たちが躍動する。1点目の起点になった野田は身長185cm体重79kgの恵まれた身体とフィジカルの強さをもちながら、これまで故障を繰り返してきた。 名古屋グランパスから完全移籍で加入した2017年の新体制発表会。すでに練習を開始させていたなかで、全身の筋肉痛に襲われていた野田は「座って語らせてください」と恐縮しながら抱負を語っている。3年目で曹監督が課すハードなトレーニングへの免疫もついた、といまでは笑顔でこう続ける。 「多少は慣れた、というのはありますね。積み重ねがいまの自分を作っていると思うので」 鹿屋体育大学から加入して2年目の松田は、横浜F・マリノスとのYBCルヴァンカップ決勝を含めて、昨シーズンの公式戦で途中出場・途中交代する起用を3度も経験している。いざピッチに立ったものの、期待されたプレーを演じることができなかった過去を「鍛えられたと思う」と振り返る。 「もちろん悔しかったけど、(監督の)気持ちもわかるので。メッセージ性のある交代だったと、いまでは思っています」 同点弾のきっかけとなったヘディング弾を放った坂は、センターバックとしては小柄となる身長174cm72kgのサイズを、自らの武器と公言してはばからない。威風堂々としたプレーぶりは、曹監督から授けられた高い評価も源泉になっている。 「ウチのチームの守備は相手の攻撃をはね返すよりも、早く予測して先に動くプレーにある。その意味で坂のアジリティー力や、ポジショニングを生かした対人や空中戦での強さはチームの力になる」 そして今シーズン初ゴールを決めた古林と曹監督との出会いは、古林がベルマーレU-15の最上級生だった2005年に行き着く。この年にベルマーレ入りし、U-15を率いた曹監督は翌年にU-18監督、2009年からトップチームのコーチ、そして2012年から現職でいま現在に至る。