「責任者の死亡により作業指示が大変に遅れ」 いなば食品「怪文書発表」がマズいこれだけの理由
この発表に褒めるところがあるとするならば、文春報道から1~2日後で出されたスピード感だろうか。しかし、はっきり言って、この内容から危機管理能力は感じられない。責任の所在についてはもちろんだが、そもそも「問題点を誤認している」ように思えるのだ。 文春報道が問題提起している論点は、「従業員の労働環境が確保されているか」だろう。ちゃんと記事を読むと、シェアハウスの実態は、あくまでその一要素に過ぎず、問題は一般職の待遇が十分に確保できない企業体質にあるのでは、と指摘する内容だとわかる。
しかし、いなば食品のリリースを読むかぎり、同社が問題だと認識しているのは「シェアハウスがしっかり改修されているか」という1点のみではないかと感じる。広報実務のあれこれを差っ引いても、そもそも前提条件にズレが生じていれば、謝罪も的外れなものとなり、場合によっては「話をそらした」などと、イメージダウンにつながりかねない。 商品開発も、広報戦略も、購買ターゲットをどこに置くかを見定め、ニーズに合った形で提供するのが定石だ。とくに「いなば食品」や、ちゅ~るの「いなばペットフード」はヒット商品を抱えて、消費者から支持されてきたからこそ、ひと度その視点のブレが目立ってしまうと、商品そのものへの印象も悪くなってしまう。実際にSNS上では、今回の対応をめぐって、「ちゅ~る不買したいが、愛猫が許してくれるか」などと葛藤する声も相次いでいる。
■「第三者の視点」を入れた対応が必要 企業倫理を問われる状況では、対応もまた、倫理的かどうかの基準で評価される。その点から言えば、今回のプレスリリースでは、まだ不十分だ。さらなる悪評につながらないためには、早い段階で誠実かつ、的外れでない対応が必要となるだろう。 そのうえで欠かせないのが、「第三者の視点」を入れることだ。非上場のオーナー企業が、時折ガバナンスの機能不全に陥る要因として、同族経営だからこそモノが言えない状況を招くことがある。今回の文春報道も、まさにそこへメスを入れている。