旧ジャニーズに出演を断られて本当によかった…紅白歌合戦で所属タレントの起用を狙ったNHKの無頓着
NHK紅白歌合戦が大晦日に放送される。旧ジャニーズ事務所所属タレントの出演は2年連続でゼロとなる。元テレビ東京社員で、桜美林大学教授の田淵俊彦さんは「ジャニー喜多川氏の性加害問題を過去のものにしようとするNHKの姿勢は看過できない。NHK自身の総括は不十分であり、中途半端な状態での起用はタレントのためにも、視聴者のためにもならない」という――。 【この記事の画像を見る】 ■NHK会長「結果的に応じていただけなかったのは残念」 2024年の大晦日に放送される第75回「NHK紅白歌合戦」の出演者が11月19日に発表され、紅白合わせて41組の出場が決まった。そのリストには、旧ジャニーズ事務所所属のタレントを引き継いだスタートエンターテイメント社(以降、「スタート社」と省略)の歌手の名前はなかった。 NHKの稲葉延雄会長は翌20日の定例記者会見でこのことについて、「出演交渉の詳細は必ずしも承知していませんが、結果的に応じていただけなかったのは残念なことだと思っています」と述べた。 10月には、故ジャニー喜多川氏の性加害問題を受けて昨年9月以降見送ってきたスタート社所属タレントの新規起用を再開すると表明していた稲葉会長だが、その際に紅白歌合戦への出場について記者に聞かれると「紅白(歌合戦)の制作に向けて判断したわけではない」と述べるに留めた。 だが、この措置が紅白歌合戦出演オファーの布石であることは明らかだと誰もが思っていただけに、最終的な出演者にスタート社所属タレントが含まれていなかったことに関してさまざまなメディアやSNSで憶測が飛び交った。 今回のこの論考では、既報の記事を検証したうえで、「なぜ紅白歌合戦にスタート社所属のタレントが出演しなかったのか」という問いの答えを探る。その際に、テレビ局の構造やタレント事務所の思惑、そして両者の関係など、読者の皆さんが通常は知ることのない、いわゆる「業界慣習」の面からも分析をおこなってゆく。 ■出演辞退の3つの要因 結論を先に述べよう。「なぜ紅白歌合戦にスタート社所属のタレントが出演しなかったのか」という問いの答えは、以下の3点に要約される。 ---------- 1.地上波にもはや「うま味」はない 2.スポンサーに対する「禊」が済んだ 3.事務所内のタレント行政が難しくなった ---------- 「なぜ紅白歌合戦にスタート社所属のタレントが出演しなかったのか」という問いの答えとしてSNSやネット記事に散見されるのは、10月20日に放送されたNHKスペシャル「ジャニー喜多川“アイドル帝国”の実像」からの影響を挙げるものである。放送以来、両者の関係が悪化して、紅白歌合戦への出演交渉が難航したという報道が目についた。 私自身が出演しているからよくわかっているが、作り手の熱意と思いに反して、この番組は「アイドル帝国」の実像に迫りきることはできなかった。そればかりか、私も含め“過去に関わった”人物ばかりを取り上げて体裁を保つような内容になってしまった。つまり、何となくNHKはこの問題を「過去のもの」と総括したがっているように思えた。これは事務所側から見れば、“都合よい”に違いない。したがって、今回の放送を「歓迎」すれど、「反発」することはないと考えられる。