鳥の保護やバードウォッチングにAIアプリが大活躍、6000種を超える鳴き声を識別
5月10~16日は愛鳥週間、AIが鳥の保護にもたらしている大きな変化と取り組みを紹介
この10年間で、人工知能(AI)の力を活用して様々な鳥の鳴き声を識別するアプリがたくさん登場し、科学者やバードウォッチャーに利用されている。さらに、AIが鳥の行動や分布を特定できることを示す研究が増えており、その結果は保護活動にとって極めて重要だ。愛鳥週間によせて、AIが鳥の保護にもたらしている大きな変化と科学者たちの取り組みを紹介しよう。 ギャラリー:すごいフクロウ14選、人気投票も 米西部のシエラネバダ山脈の緑豊かな森林では、毎年春になると、科学者たちが1600個以上の弁当箱サイズのレコーダーを隠す。夏の終わりに回収されるまで、これらの機器は100万時間分の音声を録音する。その中には絶滅危惧種であるニシアメリカフクロウ(Strix occidentalis occidentalis)の鳴き声が含まれていることが多く、この鳥が過ごす場所について貴重な情報を教えてくれる。 しかし、人間が膨大な録音データをすべて確認するのは大変だ。 「とてもじゃないけど、全部聴く時間はありません」と、米コーネル大学鳥類学研究所K.リサ・ヤング保全生物音響学センターでフクロウのプロジェクトを共同で率いる研究員のコナー・ウッド氏は言う。 ところが、この研究チームは膨大なデータを処理できている。「BirdNET」の助けを少し借りればよいのだ。BirdNETとは2018年に発表された人工知能を活用したシステムで、世界中に生息する6000種以上の鳥の鳴き声を識別できる。 「私たちには、柔軟性が高く、音響活動をする動物をできるだけ多く特定できるツールが必要なのです」と、ドイツ、ケムニッツ工科大学と共同でBirdNETを開発したウッド氏は言う。「BirdNETが、生物音響学の分野にとってどれほど革新的であるかは言葉では言い表せません」
続々と集まり続ける鳴き声のデータ
2016年、コーネル大学鳥類学研究所はケムニッツ工科大学のコンピューター科学者であるステファン・カール氏に、野生で録音された鳥の鳴き声を処理するアルゴリズムの作成への協力を依頼した。 2年後、研究チームはBirdNETの公式アプリを立ち上げ、世界中の人々がノートパソコンやスマートフォンなど様々な機器から自分がとった録音をアップロードできるようにした。それ以来、BirdNETは鳥の高品質な鳴き声を1億5000万件も収集している。 データの宝庫であるこのアプリに加えて、コーネル大学鳥類学研究所が開発したAI搭載のもう一つの鳥類音響アプリである「Merlin」には300万人以上のアクティブユーザーがおり、Merlinに音響データを送っている。 では、これらの魔法のようなツールはどのように機能するのだろうか? Merlinは鳥の鳴き声をスペクトログラムと呼ばれる音波の画像に変換する。その後、その画像がMerlinのアルゴリズムに入力され、ある鳴き声がもつ固有の周波数の変化や、タイミング、振幅を特定する。 「アルゴリズムが見つけるこれらのパターンは、人間が見つけられるものよりはるかに捉えにくくて細かなものです」と、カール氏は言う。氏は、コーネル大学鳥類学研究所保全生物音響学センターの博士研究員でもある。 米森林局と米国立公園局の資金提供を受けたウッド氏の研究チームは最近、シエラネバダ全域のニシアメリカフクロウの個体数を生態系全体で評価する初の取り組みにBirdNETを活用した。この情報は、ニシアメリカフクロウの個体数の傾向を示すものであり、外来種や山火事の脅威にさらされているシエラネバダのニシアメリカフクロウの回復や保護活動を後押しするものだとウッド氏は言う。 「各省庁は、個体数に関する情報を得るモニタリングツールとしてだけでなく、実際に現場での活動を具体的に促進するためにもBirdNETを導入しています。実にすばらしい」とウッド氏は述べる。