【F1分析】角田裕毅のシンガポールGPはスタート失敗が最大の痛手……しかしソフトタイヤの扱いは抜群
F1シンガポールGPで、RBの角田裕毅は8番グリッドからスタートしながら12位でフィニッシュ。入賞を果たすことはできなかった。 【リザルト】F1第18戦シンガポールGP決勝レース結果 角田はスタートの蹴り出しが悪く、ポジションを11番手まで落としてしまうことになった。抜きにくいシンガポールではこれは致命的。しかも角田のマシンは最高速が伸びておらず、おそらく他車に比べてダウンフォースをつけ気味にしたセッティングだったはずだ。このふたつのことが、角田がポイントを獲得するチャンスを奪った格好だ。 では、何か角田陣営が入賞を目指すために取れる策はなかったのだろうか? ひとつ考えられるのは、他車よりも先にピットストップし、アンダーカットを狙うという手法であろう。それを成功させたのはフェラーリのカルロス・サインツJr.であり、アストンマーティンのフェルナンド・アロンソだった。
■角田陣営になかなか訪れなかった、ピットストップの好機
このグラフは、中団グループ各車のポジションの推移を折れ線グラフで示したもの。中団グループ首位のマシンから、各車の差がここに示されている。線が真下に落ちている部分は、ピットストップを行なって後方を下がったということだ。 これを見ると、早々にピットストップを行なったカルロス・サインツJr.(フェラーリ)が、結果的には5台抜きを成功させてフィニッシュしている。また、続いてピットストップしたアロンソも、ニコ・ヒュルケンベルグ(ハース)を攻略することに成功している。 これを見れば、早々にピットストップを行ない、アンダーカットするのが成功だったように見える。しかしその判断も簡単ではなく、ある意味ギャンブル的な決断が必要だった。 サインツJr.がピットストップしたのは13周目(グラフ赤丸の部分)。今回のシンガポールGPは62周で行なわれるレースだったため、あと49周を残していたわけだ。しかもシンガポールのコースはピットストップのロスタイムが大きい(28秒以上)だったこともあり、1ストップ作戦で走り切らねば、勝負権はないに等しかった。つまり残りの49周をハードタイヤで走り切ることができるかどうか……ある意味そういうギャンブルを、フェラーリ陣営は選んだわけだ。 アロンソは25周目でのピットイン(グラフ青丸の部分)だったため、サインツJr.よりはギャンブル的要素は少なかったものの、先にピットストップしたサインツJr.らのペースに翳りが見えていたこともあり、判断は簡単ではなかったはずだ。 さて角田としてはもうひとつ考えねばならないことがあった。それが、前述のトップスピードである。角田が例えば30周目にピットインしていたならば、まだタイヤ交換を済ませていないキック・ザウバー勢の後ろでコースに戻ることになったはずだ。そうなった場合は、コース上でキック・ザウバー勢などを攻略しなければならないが、最高速が伸びていなかったことで、角田としてはこの攻略に時間を要してしまう可能性もあったはずだ。そのため、なかなかピットに入るという判断ができなかったのだと推測できる。 ちなみに決勝レース中のスピードトラップの最高速を見てみると、サインツJr.が298.9km/h、アロンソが302.5km/hだったのに対し、角田は295.4km/h。最もスピードが出るターン7手前の第一計測地点では、サインツJr.が317km/h、アロンソが314.9km/hだったのに対し、角田は306.9km/hにすぎなかった。この差は大きい。 そのため角田陣営は動けず……その間にライバル勢が次々にピットストップしていった。そしてセーフティカーやバーチャル・セーフティカーが出動するのを待ち、コース上にとどまるしかない状況に陥った。 ただシンガポールGPにしては珍しく、今回はセーフティカーが出動するような事故は起きず、レースは進んでいった。 その結果角田は、レース距離の半分を超えた33周目にピットインし、タイヤを交換した。そこで履いたのはまさかのソフトタイヤ。これには、多くの方が驚いたはずだ。しかしこの判断は大成功であり、角田も実に上手くソフトタイヤを使ったと言える。 このレースでは、FP2などのロングランデータを見ると、ソフトタイヤは十分使えるタイヤだと思われていた。そのため、メルセデスのルイス・ハミルトンとRBのダニエル・リカルドがソフトタイヤを履いてレースをスタートした。しかしいずれもソフトタイヤの扱いに苦労していた。 そんな中でも角田はソフトを上手く発動させ、ハイペースで前を追いかけることになった。 レースペースを見ると、角田が実に慎重にソフトタイヤを使い始めていたことが分かる。