景のある「リー101」だけを徹底的に探して出合ったこの一本!
結果、当時のリーバイスなど右綾織りのデニムはコントラストがはっきりした、ヒゲやハチノスと呼ばれるダイナミックな色落ちがしやすい。一方リーの左綾織りは、撚りと同方向に織るので生地が締まり、なめらかな表面になり、縦落ち自体はしやすいのだけれど、それがジーンズ全体に及び、色落ちの荒々しさや、部分によるコントラストが表出しにくい。この右綾と左綾の違いが、現在のヴィンテージ市場におけるリーバイスとリーの価格差の要因のひとつとなっている。 骨董の世界では、例えば茶碗の表面の釉薬が経年変化をして、面白い色や模様、形状を見せることを景色(けしき)、あるいは景があると称したりするが、古いリーのジーンズのなかから、景のある個体に出くわすのは、リーバイスの何倍も難しい。それに気付いてから(特にヴィンテージの501が超高騰する昨今は)、景のあるリー101だけを徹底的に探すようになった。そして出合ったのがこの一本。なかなか良い景があるでしょ? 値段は同時代の501に比べると、まだ現実的なプライスだったし。断然こちらがレア。 余談かもだが、そのうちヴィンテージデニムの優れた個体には、骨董の茶碗や宝石と同様に、それぞれにニックネームが付けられ、呼ばれるようになるのも時間の問題かと私は思う。
田中知之(FPM)
1966年京都生まれ。音楽プロデューサーでありDJ。それでいてクルマも時計も大好物。ヴィンテージにも精通し、服、家具問わずコレクターであり、食への造詣も深い。 2024年9月号より
文/田中知之(FPM) 写真/鈴木泰之(Studio Log)