予選で「無敵艦隊」を作り上げた元スペイン代表監督クレメンテ。戦術的は凡庸でもリーダーの資質は備えていた【コラム】
監督にとって、言葉は諸刃の剣だ
2019年10月、スペイン、ビルバオのホテルのロビーで、元スペイン代表監督でEUROやワールドカップで指揮を取ったことのあるハビエル・クレメンテと話をする機会があった。 【画像】ワールドクラスたちの妻、恋人、パートナーらを一挙紹介! 一見、クレメンテは小柄なおじいさんのようにしか見えない。実際、身長は165センチ程度。大男が多いバスク人の中に混ざると、埋もれてしまいそうだった。 しかし知人の紹介を受け、視線を合わせた時の異様なまでの貫禄は忘れられない。眼光は鋭く、握手は力強かった。真っ直ぐ目を見つめられると、たじろぐようなところがあって、それは彼の人間性に気圧されたのだろう。不思議な感覚だった。 「監督に問われるのは、パーソナリティ。人間性そのもので統率する」 それはスペインではしばしば語られる‟原理”である。敬意がなかったら、どんな言葉も届かない。人間性そのものが、リーダーには問われる。例えば、最新のトレーニングメソッドを取り入れても、それが効果を出さない理由は明白だろう。発信する人間が違ったら、同じ言葉も、同じ論理も、響かないのだ。 人気のサッカー解説者が現場に出ると、「どうしようもないヘタレ監督」ということがある。「あれだけ論理的に、楽しく語ることができていたはずなのに、どうして?」となるだろう。しかし、不思議なことではない。なぜなら、解説は客観的でわが身に落とし込むことはないが、現場では様々な考えを持った選手たちが当事者になるのだ。 信頼を置かないリーダーの言葉は届かない。 もう一つ言えば、リーダーは言葉を重ねれば重ねるほど選手に届けられない、と言われる。なぜなら、饒舌なリーダーは結果的に多くの嘘をつくことになるからだ。サッカーは多様で、臨機応変なスポーツで、一つひとつの事象を語っていくと、よほどの賢者ではない限り、そこに矛盾が生まれてしまう。 監督にとって、言葉は諸刃の剣だ。 クレメンテは1980年代にアスレティック・ビルバオで、ラ・リーガを連覇したことでも知られる。スペイン代表ではW杯やEUROはタイトルに届かなかったが、予選は無敗で「無敵艦隊」と呼ばれていた。そのリーダーシップは独特で、「家長」のような存在として求心力が高かった。戦術的には凡庸で、蹴るサッカーに近く、先進性を欠いていたが...。 クレメンテが名将だったか、どうかはわからない。しかし、監督というリーダーの資質は備えていたのだろう。肌で感じられる覇気が、戦いの現場では必要になるのだ。 挨拶した時のクレメンテは握手だけで、一言も口を利いていない。 文●小宮良之 【著者プロフィール】 こみや・よしゆき/1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。2001年にバルセロナへ渡りジャーナリストに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写する。『選ばれし者への挑戦状 誇り高きフットボール奇論』、『FUTBOL TEATRO ラ・リーガ劇場』(いずれも東邦出版)など多数の書籍を出版。2018年3月に『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューを果たし、2020年12月には新作『氷上のフェニックス』が上梓された。
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