2022年にカフェがオープンした掛川市指定文化財「竹の丸」＝6月上旬、掛川市

　日本庭園が楽しめる近代和風建築のカフェや、銅板壁の緑青に現代的なアートが映えるウイスキー蒸留所－。地域の文化財建造物を民間企業が活用する動きが静岡県内で広まっている。 　企業は建物の価値を損なわないよう工夫して事業を展開。担当者は「活用することが結果的に文化財保護につながる」と口をそろえる。 　赤い瓦と白い壁が特徴の静岡市駿河区の国登録有形文化財「旧マッケンジー住宅」は2025年春、敷地内に結婚式場を設ける。式場を運営するブライダル事業のノバレーゼ（東京都）によると、レストランとイベントホールの2棟を増築する予定。新棟の外観は旧住宅の意匠に統一し、景観の調和に配慮するという。 　旧住宅は23年3月まで一般公開されていたが、コロナ禍もあって過去5年の平均年間来訪者数は約3千人と伸び悩んだ。同社と市は新たな機能の追加で人を呼び、地域活性化と持続的な管理運営を目指している。 　掛川市の指定文化財「竹の丸」では22年、指定管理者の掛川城管理運営共同体がカフェをオープンした。開業に際し、建物に傷をつけたり壊したりしないよう工夫した。地元の食材を使った焼き菓子やケーキが人気で、利益の一部を維持管理費に充てているという。 　当初は賛否両論で「貴重な建物でそんなことしていいの」と批判的な声もあった。メニュー開発に積極的に取り組み、現在は老若男女がカフェを訪れる。民間の強みを生かした運営に市の担当者は「利用者の増加がうれしい」と感謝する。 　ウイスキー製造販売の「Whiskey＆Co．」（東京都）は、三島市の国登録有形文化財「懐古堂ムラカミ屋」を土地ごと買い取り、23年に蒸留所をオープンした。所有者であるため外観を変えることもできたが、建築当時の意匠を尊重。特徴的な銅板壁のアートも、文化庁や市の景観維持のルールに従った。 　長い間ほぼ空き家だった建物。大森章平社長は「ビジネスで誘客し、雇用を生み、地域を活性化させる。価値ある文化財を何十年先も守るため、新たな価値を創造し続けたい」と話す。 若者や外国人に需要 　静岡県内で広まっている文化財建造物の民間活用。国学院大観光まちづくり学部長の西村幸夫教授は同様の事例は全国的に増加傾向といい、「若者や外国人観光客にとって昔ながらの建物は新鮮。需要は今後ますます高まる」と指摘する。 　きっかけは2019年の文化財保護法の改正。「保存」を最優先にしてきた同法が、文化財の保護だけでなく「活用」を後押しするようになった。23年に新型コロナウイルス対策の行動制限が緩和されたことも活用促進に影響した。 　今後は蓄積した活用ノウハウを生かし、文化財建造物単体ではなく、街道筋や伝統芸能など別々に守っていた地域の“宝”を結びつけて活用していく必要があるという。西村教授は「歩かなければ道が道でなくなるように、文化財建造物も使わなければ朽ちるばかり。行政や企業、住民が連携して街全体を盛り上げて」と言葉に力を込める。