日曜劇場『海に眠るダイヤモンド』で最も演技が良かったキャストは? 余韻が残る神演技を解説。ドラマ史に名を刻んだ役者は?
「美しい」としか言いようがない演技・宮本信子
生きることの意味さえ失いかけていた玲央に声をかけた謎の女性・いづみを演じた宮本信子。序盤は百合子、リナ、朝子のうちの誰がいづみなのか、ということが物語の中心になっていた。しかし、その正体は朝子だということが明らかになると、完全に「そう」としか見えなくなった。 正体の発覚後、私は1話からいづみを「朝子」として改めて見たのだが、いづみを作る全てが朝子そのもので震え上がった。朝子の「髪に耳をかける」仕草のリンクなど、これは脚本、演出の妙もあるが、間違いなく宮本信子の演技があってのものだろう。 そこに立っているだけで、役が歩んできた人生の背景を感じ取ることができる深みのあるセリフ回しや表情の機微は「美しい」としか言いようがない。
絶妙な雰囲気で物語のキーマンに・酒向芳
いづみの社長秘書としていづみを見守ってきた男・澤田を演じた酒向芳。「出てきたら黒幕か犯人」と言われるほど、どの作品でも異質な存在感を放つ酒向芳だが、『海に眠るダイヤモンド』ではこれまでのイメージを覆す役を怪演。 いづみを見守りつつも、どこか信用ならない「この男は何者だ?」と違和感を放つ絶妙な雰囲気を見せていたのだが、終盤で実は進平とリナの息子・誠であることが明かされる。 ずっと己の存在が朝子と鉄平を引き裂いてきたのではないか、と罪悪感に満ちていた澤田だったが、いづみの「あなたが生きてて、また会えて、良かった」と手を握られた瞬間、一気に憑き物が落ちたような雰囲気に。 この陰陽のグラデーションの演じ分けは酒向芳という役者にしか、なし得ないだろう。 【著者プロフィール:かんそう】 2014年から、はてなブログにてカルチャーブログ「kansou」を運営。記事数は1000超、累計5000万アクセス。読者登録数は全はてなブログ内で6位の多さを誇る。クイック・ジャパン ウェブ、リアルサウンド テックなどの媒体でライター活動を行うほか、TBSラジオで初の冠番組『かんそうの感想フリースタイル』のパーソナリティも務め、2024年5月に初書籍『書けないんじゃない、考えてないだけ。』を出版した。
かんそう