【パキスタン代表監督奮闘記5】侍ジャパンとの対決で見えてきた課題
侍ジャパンとの一戦で、失点を防ぎ喜ぶパキスタン代表
パキスタン代表監督の手記として、パキスタン国内の野球事情、そして複雑に絡み合う文化、宗教、人間関係を紹介してきた。私は自身の挑戦を通して、これからのパキスタン野球には、より強固なチームの協力体制が必要だと感じている。
試合前にアジア野球連盟と口論
アジア選手権の大会2日目、侍ジャパン社会人代表との一戦を迎えた。日本代表は、アップ、守備、そして打撃とそれぞれ専門のコーチが付き、試合への準備を淡々と進めていた。一方のパキスタン代表は、コーチ陣はなぜか散歩し、選手は指示待ち状態になっていた。
試合開始前、アジア野球連盟とパキスタン代表は、試合準備の時間配分をめぐってちぐはぐしていた。試合前のノックは10分と決められているが、予定表にはキャッチボールの時間は記載されていない。しかし、パキスタン代表がノックの前にキャッチボールをしているのを見た連盟の役員が、キャッチボールの時間もノックに含むとして、「早くノックを始めろ」と指示してきたのだ。先にノックを行った日本代表もノック前にキャッチボールをしていたが、その時間はノック時間に含まれていなかった。 連盟側は、毎大会予定時間通りに進まないパキスタン代表の試合を、何としても時間通りに進めようとしていた。一方でこちらとしては、試合前の準備内容を急に変更することは選手にいらぬ負担をかけるので、了承できなかった。私も役員も譲らず、口論にまでなった。結局、役員と決着がつかないまま私はノックに入り、パキスタン側は予定通り試合前の準備を終えた。その後、試合前に気持ちを落ち着かせてから、再び役員と話し合い和解したが、身体がいくつあっても対応しきれないと限界を感じた試合前だった。結局、試合は力及ばず、コールド負けした。
コーチは軍と警察の元幹部
試合前の現場は、非常にめまぐるしい。コーチ陣の協力がないと、私の仕事は分刻みになる。パキスタンにもコーチが2人付いていたが、投手、打撃、守備、トレーニングといったカテゴリー別に分けられる知識や専門性はない。野球の知識は乏しく、コーチというより、パキスタン野球振興への貢献者が同行しているのが実情だ。彼らの野球への理解と協力で、代表チームはなんとか成り立つ。