【パキスタン代表監督奮闘記5】侍ジャパンとの対決で見えてきた課題
コーチ陣はそれぞれ、軍と警察の元幹部だ。軍人のコーチは、軍人選手を引っぱる統率力はずば抜けているが、基本的に野球の知識は何もない。毎度、問題を起こすのが警察のコーチであり、普段は練習に来ない上、突然中途半端な野球の知識に基づいた根も葉もない指導をして、選手を困惑させることもある。本来はコーチとしての素養を身に付けた上で同行させるのが理想だったが、今回の1カ月という過密スケジュールでは、コーチのための勉強会まで催す時間がなかった。
軍人選手の強靭なメンタル
パキスタン野球を支える強さは、軍隊出身者の統率力とプライドである。どんなに苦しい状況でも、絶対に弱音を吐かず、やりきる。指導者としては、疑問に思ってくれないと面白くないときもあるが、彼らは言われたことを必ず遂行する、チームとして絶対的に必要な存在である。 侍ジャパンとの試合中にもそんな場面が訪れた。侍ジャパン相手に2回無失点で終えたことに興奮した警察のコーチが「次のピッチャー準備しろ。十分やったよ。はっはっは」と満足げに指示を出し始めたのだ。なぜ急にコーチがこんなことを言い始めたのか疑問だったが、私は3日後の中国戦に向け、最低3回、長くて5回まで投げさせようと考えていた。選手たちは当然コーチに逆らえないため、一気に微妙な雰囲気が流れた。 私は個人的にその軍人出身の投手の意思を確認したく、彼をベンチ裏に呼んだ。すると彼は、私の心配をよそに「何をおっしゃいますか。言われた通りやり切りますよ」と、再びマウンドに上がっていった。チームの雰囲気が悪くなった状態でも、彼は4回途中3失点と想定通りに投げきってみせた。私は結果よりも、このチーム状態で世界一の侍ジャパン相手にやりきる彼の意思の強さに可能性を感じた。
能力ある「パキスタンの原石たち」を生かせ
侍ジャパンとの戦いを通して、チームの構造をいち早く理解し、与えられた環境と選手を適材適所に活かすことが必要だと強く感じた。能力の高い選手、精神的に成熟した選手という今ある資源を生かす体制作りが急務である。縦社会であるパキスタンにおいて、これがどれだけ大きな難題であるかは重々に承知している。それでも、パキスタンの原石たちが、その壁を超えた先のパキスタン野球を見てみたいという私の好奇心をくすぐる。