社説:飲み水の安全 PFASの調査と対策、急げ
飲み水の安全を守るため、踏み込んだ汚染対策を求めたい。 発がん性が懸念される有機フッ素化合物(PFAS)が全国で検出されている問題を巡り、国が水道水の全国調査を初めて公表した。京都、滋賀など46都道府県の332水道事業でPFASが検出されたが、国が目安とする「暫定目標値」を超えた箇所はなかったとしている。 だが、自治体の独自調査などでは超える例も相次ぎ、各地域に不安が広がっている。 臨時国会で石破茂首相は「来春をめどに水質基準の引き上げなど対応の方向性をまとめる」と答弁したが、不十分ではないか。自治体や事業者の対策支援、発生源調査や除去指導なども含め包括的に検討すべきだ。 米企業が開発したPFASは撥水(はっすい)・撥油の特性からフライパン加工、半導体や車の製造、泡消火剤などに使われてきた。 用途に応じて1万種類以上あり、毒性が判明した種類は国際条約で製造禁止などになった。だが自然界で分解されずに水や土に残るため、汚染は続く。 健康被害は確認されていないが、がんのリスク増加や胎児の成長低下などの疫学報告がある。内閣府の食品安全委員会も6月、健康への悪影響は「否定できない」とした。 全国調査は5月から9月に行われ、2割の水道事業者から検出された。すべて国の暫定目標値の1リットル当たり50ナノグラムを下回ったが、値が欧米より緩いと指摘されている。米国は4ナノグラム、ドイツは20ナノグラムである。 これとは別の自治体調査で8月、綾部市の犀川で72ナノグラム、京田辺市内三つの川で最大140ナノグラムが検出された。目標値を超えていた福知山市と京丹波町の猪鼻川では11月調査で、上流域にある産業廃棄物処分場の放流水から92ナノグラムを確認。発生源の一つとみられている。 泡消火剤を用いる在日米軍や自衛隊の基地、消防施設のほか、工場などの周辺でも高濃度PFASが見つかっており、発生源とされる。日米地位協定に阻まれる米軍基地はもとより、行政による調査権の規定がない。水源の安全に関わるだけに、石破氏が持論とする地位協定の改定も含め、立ち入りや指導などの仕組みが不可欠だ。 水道法上の「水質基準」対象でないPFASは、暫定目標値を超えても公表や改善の義務はなく、法改正は欠かせない。水質管理や浄化などへの政府助成とセットで進めたい。 一部浄水場で高濃度の値が検出された岡山県吉備中央町は先月から、周辺住民ら800人を対象に公費で血液検査を始めた。岡山大と結果を分析し、5年後も調査するという。 PFASのリスクや実態に未知の部分も多く、継続的な調査と研究は重要である。過小評価することなく、国が主導して被害予防に努めねばならない。