”クモ男”シジマールが語る「ゴールキーパー論」…「GKの『シュートストップの能力』より『足元の技術』を評価する流れはよくない」 いまはJリーグ首位を走るヴィッセル神戸のGKコーチ
自身の選手時代と日本サッカーの「今」の違い
――来日当時と比べて、日本でのGKの指導法や環境も大きく変わってきたと思います。大きく変わった部分はどこにあると感じますか? 私の現役時代、GKはシュートストップすることがメインの仕事でした。とにかく点を取られないキーパーが優秀で、失点が少なければポジションを勝ち取れたわけです。現代のサッカーは足元の技術もあり、攻撃参加もできないといけない。ボールコントロールも正確なフィードも要求されます。今のGKを見ていると、シュートストップやゴールを守ることに長けた選手がいたとしても、足元の技術がなければレギュラーにはなれませんよね。 これは私の個人的な考えとして聞いて欲しいのですが、その流れには否定的です。というのは、GKは点を取られてはいけないポジションなので、僕の考えの中にはその能力が高くなければならないという考えが1番にあります。ただ、時代の流れとともにサッカーのトレンドは変わり、確かに足元の技術も最低限は必要な能力です。監督が求める戦術や能力もあるのでしょうから。 ――ブラジルから日本に来たとき、サッカーの環境や指導において驚いたことはありましたか? 私が清水エスパルスに来た時は、専門のGKコーチはいなかった時代です。高校、大学も含めて日本にGKコーチはいなかったと思います。だからといって不満がわったわけではなく、当時はそういうものだと思ってやっていました。当時の清水の監督は、元ブラジル代表GKとしてW杯に4度も経験しているエメルソン・レオンさんでしたから、彼のサポートを受けながら練習やトレーニングはしていましたが、専門的に見るコーチからより強度の高い練習をする必要があると思ってもいました。 ――日本のサッカースタイルに戸惑いはありませんでしたか? 言葉の壁やスタイルの違いには戸惑いはありました。日本のサッカーは当時からフィールド上の攻守の切り替えの速さもそうですし、とにかく走る。それに縦に速い。ボールを持っていてもすぐに前に持っていくので、自分たちで落ち着いて時間を作るというのがあまりなかった。さっき攻めていたのにもう攻められているとか、最初は面食らう部分もありましたが、割と早く馴染めたと思います。 ――これまでプロのクラブ以外にも高校、大学などでもコーチを務めていますが、日本のGKが優れている部分はどこにあると感じますか? 日本人はものすごく練習が好き。自分を鍛えること、それに献身性も高い。私が知る限りでは、集中力と献身性がずば抜けてる国民性だと感じます。私の母国のブラジルや他国の選手がそれを持ってないっていうわけではなく、特に日本人の優れた部分という意味です。例えば練習でも2~3時間やる必要なく、1~1時間半ぐらいで終えることができる。それくらい集中力が高いです。要求にしっかり応えようと努力してくれます。これはカテゴリーに関係なく、そういう視点を持ってるのは日本人の優れたところだと思います。 後編「ゴールキーパーは嫌だ」という風潮を変えるために必要なこと…“クモ男”シジマール「GKはすごく楽しいポジションなんだ」へ続く。
金 明昱(スポーツライター)