SEKAI NO OWARI、心と体を補い合った“総力戦”7thアルバム 不調を抱えたFukase「無理に戦わなかった。そういう自分も肯定したい」
──でも、あらためて2022年6月にリリースしたシングル「Habit」はその扇情的な楽曲の内容と、ダンスを効果的に取り入れシニカルなエンターテイメント性にも富んだMVが、TikTokをはじめとするSNSを席巻しながら社会現象とも言えるような大きなバズを起こしました。「背中を押す曲を」というリクエストから「Habit」のような楽曲が生まれたのも面白いし、この楽曲が口火を切って様々なタイアップを呼び込んだのも興味深いし、実にSEKAI NO OWARIらしいなと。 Fukase「よく勘違いされるんですけど、僕は自分のことを変な人だとも、捻くれてるとも思ってないし、すごくまともなことを考えてる人間だと思っていて。「Habit」も主題歌となる蜷川実花監督の映画(『ホリック xxxHOLiC』)を拝見して最初に浮かんだイメージを曲にしたんですよ。それをひねくれてると感じる人がいるなら、その人が時代遅れなんだと思います(笑)」 Saori「性格の悪さが出てる(笑)」 Fukase「いや、性格のいい背中を押す曲なんて、今の時代いらないんだよ(笑)。あと、僕らは優しく背中を押す曲はずっとやってきたし、そっちは王道でもあるので。優しくない言葉で背中を押すというのも一つの優しさなのではないかと」 ──一方で、「Habit」の系譜にあるような、シニカルかつダークに世界や人間の真理を暴くようなポップミュージックを描くこともずっとやってきたわけで。 Fukase「そう、ずっとやってきてたんですよね。“Habit”でやっと広く受け入れられたなと思うんですけど」 Saori「そっちは王道ではなかったからね」 Fukase「ファンのみんなよりも遠くに届くことはなかった。だから、逆に言えばうちのファンは「Habit」で僕が書いた歌詞にビックリしてないと思うんですよ。ファンを飛び越えた先にビックリした人たちがいて。ファンからすると『え、SEKAI NO OWARIってわりとずっとこんな感じだよ?』というスタンスだと思う」 Saori「世の中的には「RPG」や「スターライトパレード」「Dragon Night」という印象が強かったと思うし、「Habit」的な曲で大きなヒットがあったわけじゃなかったから」 Fukase「マイナーキーの曲をヒットさせるってそもそも難しいからね」 Nakajin「普通に考えたらアルバム曲やシングルのカップリングに入れるタイプの楽曲ではありますよね」 Fukase「本来であればシングルとして切らないし、MVも撮らない曲だと思う、「Habit」前のJ-POPにおける価値観にのっとれば。そこで『いっちょこのへんでこういうポップスもありなんではないでしょうか?』という気持ちも含めてシングルを切って。それがここまでブレイクすることは考えてもなかったですけど」 ──あとはこういうエグみの強い曲をそれまで描いてなかったアーティストがいきなりやってもここまでのバズを起こせないと思うんですよね。やっぱり包丁をずっと研ぎ続けてる人たちだからこそ、大きな好機をつかんだと思うし。 Fukase「そうっすね。ただ尖ったことをやってみようという発想だけで作ってたらこうはならなかったと思います。で、こういう内容の曲を変なダンスをしながら紅白みたいな大きな舞台でかませたことはミュージシャン冥利でしたね」 Saori「レコード大賞も獲ったしね」 Fukase「うん。この曲をマイクスタンドで歌っていたらこうはなってないと思う。言葉が強すぎるところをダンスで中和できてるんですよね」 ──ダンスによって角が立ちすぎない効果を生んでいる。 Fukase「そう。角が立ちすぎているところを、『おくすり飲めたね』みたいなゼリーで飲みやすくできている。それが上手くいったなと」 ──「おくすり飲めたね」!(笑)。でも、そのあり方がSEKAI NO OWARIが提示するエンターテイメントの秘訣にもなってますよね。 Fukase「そうです。『おくすり飲めたね』がファンタジーの要素だったりする。ファンの向こう側にいる人たちはだいたい僕らの『おくすり飲めたね』のゼリー部分を知っていて、僕らが本当は何を飲ませているのかはファンだけが知ってるんですよ」 DJ LOVE「糖衣錠みたいなね(笑)」 ──糖衣に包まれたその中にある本当の成分はめちゃめちゃエグみや苦みがある。 Fukase「そうなんですよ。それをそのまま飲ませるとポップミュージックにもエンターテイメントにもならないという。アルバムという部分で言えば、前作『scent of memory』や『Eye』と『Lip』は例外として、僕らはわりと1曲1曲作ってリリースしていく軌跡みたいなものが最終的にアルバムになるというスタンスでずっとやってきていて。僕自身、昔からリスナーとしてもアルバム聴きしないタイプで。アルバム聴きするんだったら、自分の好きな曲を集めてミックスしてオリジナルのMDを作るようなタイプだったので」 ──もともとプレイリスト気質だった。 Fukase「そう、もともとプレイリスト気質なんですよ。だから、アルバムの展開や曲順を形成するために作った曲みたいなものはないし、そういう曲が昔から嫌いで。だらこそ、僕らが作るアルバムってだいたい『アベンジャーズ』状態になると思うんですよ」