60代半ばで都心から郊外へ 「美学ある」団地暮らし 人生のアップダウンを経てたどり着いた「部屋」
部屋の壁や床、建具などは白で統一され、目隠しにもなるカーテンも白。アートギャラリーの白い内装をホワイトキューブというが、それに近い雰囲気だ。 そのなかに旅で買い求めた器や、アートピース、自作のファブリックなどが映える。ファッションやデザインに精通している重松さんの美意識が行き届いた住まいは、ひとりで暮らしているからこそ実現できる贅沢な空間でもある。 ■小さくとも、誰もが自立できる社会に 最後に現在の重松さんの暮らし方の礎になった書籍を教えてもらった。
「私自身がひとりでどうやって暮らしていこうかと考えたときに、影響を受けたのが『ひとりで暮らす、ひとりを支える』*という本です。 これはフィンランドの高齢化社会について書かれている本。フィンランドも日本と同じく高齢化が進んでいます。一方で高齢者もひとり暮らしをする人の割合が日本よりも多い。 本にはその方々の暮らし方が描かれていて、『未来は日本も、そのようになるんだろうな』と腑に落ちました」(*『ひとりで暮らす、ひとりを支える――フィンランド高齢者ケアのエスノグラフィー』髙橋絵里香/青土社)
その書籍は、著者の髙橋絵里香さんがフィンランドの「群島町」という小さな町に住む高齢者と、彼らを取り囲む福祉環境を文化人類学的視点から観測した記録だ。 そこで取り上げられる人々の多くは、年齢を経ても自らの意思でひとり暮らしをしており、そのライフスタイルには、それぞれの人生で培われた矜持が宿っている。 「自分のことは自分でなんとかするという考え方が、素敵だと思ったんです。だから、『稼ぐ』ということに関しても、自分自身を支えるだけの収入を得る術を、誰もがもてるといいですよね。
それは私の中小企業診断士としてのミッションにつながっています。 中小企業、個人事業主、そんな人が増えていくことをサポートしたい。ひとつの会社で働くことが全てではなくて、自分の能力をいろいろな場所で提供してお金をいただくことで、人生の自由度が増すのではないでしょうか。特に50歳を過ぎた頃に、そういう道を選べる人を増やしていく必要があると思っています」 ■積み重ねてきた経験と未来への希望 年金の受給開始年齢が段階的に引き上げられている今、シニアも働き続けることが求められている。企業の雇用制度も変化すべきだが、重松さんのいうように、年齢を経ている人がその経験を活かしながら、個人事業主として活躍できる土壌も必要だろう。
68歳の今も中小企業診断士の資格を活かして多方面で活躍する重松さんは、まさに個人事業主としてのロールモデル。 そんな重松さんが羽を休め、エネルギーをチャージするのは、これまで積み重ねてきた経験と未来への希望が同居する、豊かで清潔な部屋だった。 【写真】築50年を超える団地でリノベーションした部屋は、心地よい空気が漂う(13枚) 本連載では、ひとり暮らしの様子について取材・撮影にご協力いただける方を募集しています(首都圏近郊に限ります。また仮名での掲載、顔写真撮影なしでも可能で、プライバシーには配慮いたします)。ご協力いただける方はこちらのフォームからご応募ください。
蜂谷 智子 :ライター・編集者 編集プロダクションAsuamu主宰