モデルでは一番になれないと気づいた…だるま職人になった元パリピが「アマビエだるま」で起こした大逆転
■ファッション性のある新しいだるま アマビエだるまのヒットをきっかけに自信を深めた千尋さんは、新たな商品開発に乗り出す。その一つが「グラデーションだるま」だ。 ルイ・ヴィトンのバッグやスターバックスのタンブラーで見かける機会の多かったグラデーションカラーをだるまに採用。エアブラシを使うことで従来の筆塗りでは表現できないなめらかな階調性のある彩色を実現した。 ちなみに、グラデーションだるまには純一さんの筆で顔が描かれている。高崎だるまの一つと認められているようだ。 また、だるまが最も売れる年始に向けて、干支をモチーフにしただるまとアマビエだるまのセット商品も作った。2020年に数百個をお試しで販売するとたちまち完売。翌年からは新春プレミアムセットと名づけて、正式に商品化した(価格は2個で5000円)。 「お正月ってお金を使いたくなりますよね。でも、だるまは衣食住に当てはまらないので、1万円を超えるとキツイ。手取り12万の頃のわたしが特別な日に出せる金額を基準に考えました」 新春プレミアムセットはインスタで告知をする時にも工夫が施されている。なぜその色を使ったのか、どのように縁起がいいのか。デザインの意図や意味、風水を含めた縁起の担ぎ方が解説されている。 季節限定のカラーデザインを施しただるまも千尋さんが手がける人気商品だ。これも自身の体験が原点にある。 「モデル時代から思っていたんですが、ディオールやティファニーのブランドって限定商品が多いんですよ。なので、春夏秋冬に関連した季節限定の商品を開発しました」
■伝統を守るための“値上げ” 和菓子のように旬を意識した四季折々のだるまは多岐に渡る。春の夜桜、梅雨のアジサイ、秋のコスモス……。アマビエだるまには道明寺やレモンソーダをイメージしたデザインも作った。こうした限定品は国内外からのオファーも多く、売り出すとたちまち完売する人気商品になっている。 2023年5月1日、千尋さんは父から大門屋を継いだ。師匠と弟子の関係は、親子に戻ることはなくそのまま。それは千尋さんが5代目社長に就任する時の父とのやりとりにも現れている。 「社長になるとわかったのも就任の5日前なんですよね。父が取引先に配布するために作った「社長交代のお知らせ」の書類が手元に届いて、それを見て『社長になるんだ』と知ったんです(笑)」 社長に就任した千尋さんは以前から疑問に抱いていた価格の見直しに着手する。 店内の絵付け体験は入社時には550円だった。徐々に650円、800円と上げていたが、「200年培った技術を駆使しているのに安すぎる」と感じていたため、1500円に引き上げた。 ■販売先にも、仕入れ先にも だるまの販売先にも値上げ交渉を行った。 「『価格を2倍に上げてください』と国内外の販売先にお願いして回りました。入社した時から安すぎると思っていたんですよ。うちのだるまは伝統もあり、ブランド力もあり、デザインもいい。覚悟を持って交渉しました」 一方で、だるまの材料を仕入れている成形屋には仕入価格の値上げをお願いした。 「だるまの生地も伝統産業です。なくなるとうちも商品を作れなくなるので困ります。うちの値上は達成したので、仕入れ価格を倍にしてくださいとお願いしました。一度は断られたんですが……。2時間かけて受け入れてもらいました。だるまという縁起を担ぐ工芸品に携わってる以上、みんな儲かって、気持ちよく仕事に取り組んだ方がいいと思うんですよね」 すでにアマビエブームは落ち着いていたが、新商品の開発や価格の見直しの効果により大門屋の売り上げは下がらなかった。過去最大の売り上げを挙げたコロナ禍と比較して30%以上のペースで成長を続けている。