<調査報道の可能性と限界> 第2回 “情報コントロール”の場ともいえる記者クラブ
「調査報道って何だろう?」。それを考える上での近道は、「発表報道」の内情を知ることです。日本のマスコミでは、多くの記者が「記者クラブ」という独特の組織に足場を置き、「クラブ詰め記者」として「発表報道」に携わっています。日本の報道は「発表報道」が7割にも8割にも上る、と言われているのです。さて、その実態は――。 【画像】第1回 「権力が隠す真実」を「発表に頼らず」報道する
■「発表報道」とは?
新聞やテレビ局といった大メディアの記者は、ふだん、どこでどんな取材をしているのでしょうか。 日本新聞協会の最新データによれば、加盟104社(通信社・放送局を含む。レイアウト担当の整理部門も含む)の編集部門では約2万1000人が働いています。多くの外勤記者はふつう、担当分野を持ちます。1~2人しか配置されていない地方支局を別にして、政治、経済、社会、運動といった分野をそれぞれ任されます。本社などに行けば、それらは「政治部」のように「部」に分かれ、さらに部の中で担当は細分化されています。 記者は通常、担当分野と関連する「記者クラブ」に所属し、「クラブ詰め記者」「クラブ員」になります。記者クラブの数は全国で800以上。都道府県庁には「県政記者クラブ」、都道府県警には「県警記者クラブ」などがある上、中央に行くと、例えば、財務省には「財政研究会」という名の記者クラブがあります。外務省は「霞クラブ」、自民党本部は「平河クラブ」、首相官邸は「永田クラブ」、東京証券取引所は「兜倶楽部」…。数えると切りがありません。 そうした記者クラブが「発表報道」の舞台であり、多くの記者がその発表を取材し、報道していく――。それが大メディア記者の日常です。
■「発表報道」に依存している日本の報道
「発表」はどんな形で行われるのでしょうか。中央省庁を例にとって見てみましょう。 まず公式の記者会見があります。例えば、テレビでよく目にする官房長官の記者会見。官房長官は通常、午前と午後の2回、「永田クラブ」の記者を相手に会見を開きます。各大臣や省庁の幹部、地方に行けば、知事や市長も定期的に会見を開きます。 会見のほかには、印刷物だけを記者側に渡す「資料配布」、担当者による簡単な説明を行う「レクチャー」もあります。 こうした「発表」をストレートに報道するのが「発表報道」です。発表をそのまま報じることもあれば、補足取材などを行う「発表の加工報道」もあります。 発表の数は膨大です。一つ一つカバーしていると、記者はクラブから離れて外で自由に取材する時間もなかなか確保できません。そうしたプロセスを経て生まれる発表報道は、報道全体のどの程度の割合になるのでしょうか。 報道「量」を正確にカウントすることは至難ですが、ジャーナリストの岩瀬達也氏が著した「新聞が面白くない理由」やNHKの敏腕記者だった東京都市大学教授の小俣一平氏による「新聞・テレビは信頼を取り戻せるか」などで、計測が試みられています。それらによると、7割り程度、多く見積もれば8割超が「発表」「発表の加工」のようです。 日々のニュースを見ていると、内容は多種多様と感じるかもしれませんが、「取材のプロセス」に着目すると、政治・経済・社会の分野を中心にして、日本は発表報道に偏重していると言えます。 発表は「発表する側が発表したい時に発表したい内容を発表する」という特質があります。発表に過度に依存すると、発表する側にとって都合の良い内容が溢れかえることになりかねません。戦前、戦果を過大に伝えたり、敗北を隠したりした「大本営発表」は、その極端な事例といえるでしょう。