考察『光る君へ』6話「全てを越えてあなたがほしい」道長(柄本佑)からまひろ(吉高由里子)への歌よ!漢詩の会から読み解いてみた
清少納言「私はそうは思いません」
まひろの表情を追うと、思いがけず道長がこの会に出席した上に、彼の披露した漢詩に自分への恋情を読み取って、ひそやかな恋に打ち震える少女の胸の内が伝わってきた。しかしそのために、心ここにあらずとなってしまったように見える。 公達4人中3人の詩は白楽天で、公任だけがオリジナルなのだから、その感想が「公任さまのお作は白楽天のような歌いぶりで」は褒めているようでも、若干ズレている気がする。 そこに被せてきた、ききょうの「私はそうは思いません」。彼女は公任の漢詩が「元微之のような闊達な」歌いぶりだと言った。元微之は政への批判で知られた人物であったので、公任の漢詩は皮肉&現政権批判だと、アタシわかっちゃいましたわ! という発言ではないか。 「そうじゃございません?」 「まひろさまはお疲れだったのかしら(あなたの感想は的外れだったわ)」 ききょうに悪気はないのだろう。漢詩を語り合える同世代の女性が目の前にいて、嬉しくて仕方がないように見える。そもそも意見を述べて、いや議論をしようとして何かいけないことある? という子。 貴子はききょうを気に入ったようだ。内裏での勤務経験がある貴子としては、これくらい賢く自己主張できる女性でないと宮中ではやっていけない、いやむしろ見事に花開くであろうと見込んだのか。道隆、貴子夫妻は娘・定子が赤子の頃から、入内させるつもりで準備を進めてきた。脇を固める女房選びにも余念がないはずだ。 斉信は「鼻をへし折ってやりたくなる」と、おもしれー女認定したようだ。『枕草子』では斉信との逸話を読むことができる。ききょうが清少納言として宮仕えしたのち、彼のように興味を惹かれて彼女に挑んでゆく貴公子たちが数多くいたであろう。そして、逆に鼻をバッキバキに砕かれた人間もいただろう。 ファーストサマーウイカの好演が楽しみである。
直秀の運命が気になる
貴族の屋敷だけでなく、ついに内裏にまで侵入して盗みを働く直秀(毎熊克哉)ら盗賊の一味。内裏での盗賊事件は史料に残っていて『紫式部日記』にも宮中で同僚が強盗に遭ったことが記されている。帝のおわす場所なのに、セキュリティ緩すぎないか……とは思うが、外灯といえば松明くらいしかない都の夜。どんなに警備しても隙はいくらでもあっただろう。 ところで、直秀の「虐げられている者は人扱いされていない」「明日の命も知れぬ身だ」について。ずっと気になっていることがあるのだ。直秀たち散楽の座頭(すなわち盗賊団の長)の名前が当時に実在した盗賊・藤原保輔と似た名、輔保(すけやす/松本実)であること。藤原保輔は捕縛され、獄死した。第2話で検非違使の放免に盗賊の疑いで掴まった道長に兼家が「なぶり殺しにあっていたやもしれぬのだぞ」という言葉。 直秀、かっこいいけど縁起でもないこと言わないで……長生きしてと願っている。