ジェーン・スー 大雪が降ると私は必ず、当時付き合っていた男を思い出す。転ばないように手をつなぎ、大はしゃぎしながら大雪の東京を2人で見た夜、私は底抜けに幸せだった
◆あの夜、私は底抜けに幸せだった あの肚落ちはなんだったのか、我がことながらいまだによくわからない。好きで好きで仕方がなかった。いま考えれば綺麗事だが、世界中が彼の敵になっても私だけは味方だと自惚れてもいた。と同時に、これ以上一緒にいることはできないとも思った。我ながら支離滅裂だ。「愛情を注いであげられなかったことは申し訳なく思う」と、別れ話で彼が言った。ふざけやがってと憤った。馬鹿みたいに好きだったからね。お互い愛も情もあるが幸せではない状態が存在することを、私は知った。 別れてから3年以上経つが、SNSのせいで彼の動向は自ずと目に入ってくる。元気に暮らしているようで嬉しい。だが、そんなふうに思われていると知ったら顔をしかめるだろう。逆の立場だったら、私は「どの口が!」と腹を立てるに違いないから。 それでも、あの雪の夜はいつまでも私にとって特別なのだ。転ばないように手をつなぎ、大はしゃぎしながら大雪の東京を2人で見た夜が。あの夜、私は底抜けに幸せだった。
ジェーン・スー
【関連記事】
- ジェーン・スー 40歳過ぎから体調が優れない状態が日常に。「疲労」で済んでいたものが「罹患」とセットになり、「おまえが思っているほど強くはない」と体が逐一知らせてくる。私は弱体化している
- ジェーン・スー 誰かがSNSで幸せの数を数え出したら私の<違和感センサー>が反応する。「むしろ幸せを感じられていないのでは」と邪推する私はどこかで自分の違和感を絶対的に信用している
- ジェーン・スー 不安を抱えながらかかりつけ医に任せたインプラントがおかしい。絶対におかしいのに、私は流れに逆らえなかった
- ジェーン・スー 目をきょろきょろさせながら担当医は「大丈夫です」と言った。正直に話してくれない人に頭蓋骨を任せるわけにはいかない
- ジェーン・スー インプラント治療で27万円払った歯科医院に裏切られ、抗議すべきなのに足が動かず。他者に「抗議したほうがいい」といった発言は今後一切しない