なぜあの人は食べても太らないのか… 食の効果の「個人差」への科学的アプローチ キーワード「精密栄養」とは
リレーのようにつながるステップ
「腸活」という言葉が周知されてきた昨今では、腸が便通や免疫機能の働きに重要な臓器であるということを、何となくイメージされている人も多いのではないでしょうか。 理想の腸内細菌叢は多様性があることで、それにはバランスよく多彩な食品をとることが重要です。この背景にあるのが、健常人を対象に生活環境やあらゆるパラメーターを統合して解析した、腸内細菌叢に関する大規模なマイクロバイオームデータベースの構築が進んだことです。 これを使用して、個々の腸内細菌叢の円グラフから、精密栄養学の観点も踏まえて、その人に合わせた食事の提案も出来るようになってきました。 5年に一度の頻度で見直される厚生労働省の「日本人の食事摂取基準」。次回は2025年に改訂される予定ですが、そのなかで食物繊維の理想的な摂取量は、現行の2020年版(18~64歳で男性21g以上、女性18g以上)よりも増えることが決定しました。 食物繊維は、腸内細菌のエサになって善玉菌を増やします。善玉菌が作る酪酸などの短鎖脂肪酸は、腸の蠕動(ぜんどう)運動にとっても重要です。この短鎖脂肪酸は免疫の暴走を抑えたり、脂肪のつきにくい体質にしてくれたりするといった効果もあります。 ここで重要なのが、食物繊維をとったときに腸内細菌が短鎖脂肪酸を作るための複雑な経路です。 この経路には3つのステップがリレーのようにつながっていて、どこか1カ所でも機能しないとうまく最後までたどり着きません。 =========================== (1)第1ステップでは、私たちが食べた食物繊維やオリゴ糖を糖化菌と呼ばれる菌たちが摂取して糖に変えます。 (2)第2ステップでは、その糖をビフィズス菌が摂取して酢酸をつくります。 (3)そして第3ステップでは、酢酸を摂取した酪酸菌が酪酸をつくるのです。 =========================== たとえば、第2ステップにおいて重要な役割を果たすビフィズス菌が少ない人は、せっかく食物繊維をとっても第1ステップから先に進まずに糖が増えて、結果的に太ってしまう可能性があります。 また、第3ステップで働く酪酸菌ですが、多くの腸内細菌が自らビタミンB1を合成できるのに対し、酪酸菌はその遺伝子が欠損しているために自ら作り出すことが出来ません。 したがって、第3ステップをきちんと機能させるためには、ビタミンB1を食事から供給する必要があります。 この酪酸菌の産生能力における視点でいうと、人は3つのグループに分けられます。 =========================== ●グループ1に該当するのは、そもそも酪酸菌が少ない人。酪酸菌を増やすために、ビタミンB1が多くとれるような食事をすることが重要です。 ●グループ2は、酪酸菌が十分にいてエサさえ与えれば酪酸をつくってくれる人。この人たちは問題なくリレーを回すことが出来る腸内細菌叢なので、食物繊維の摂取がキーとなります。 ●グループ3は、ビタミンB1も足りていて、酪酸菌も十分にいるのに酪酸が作れていない人です。こういう人は、第2ステップで酢酸を作る菌が不足している可能性が高いため、ビフィズス菌がとれるヨーグルトなどの摂取が必要です。 =========================== このように、異なる腸内細菌叢を持つグループごとに必要とされる栄養素が異なるため、同じものを食べても人によってその効果が異なるのです。