【バスケ】日本代表最年少・18歳の渡邉伶音を奮起させる恩師の言葉「本気で選ばれるくらいの気持ちで頑張ってこい」
唯一の高校生、渡邉伶音「彼は自分の役割を分かっている」
11月13日、都内にて男子日本代表のメディアデーが開催された。10月25日にトム・ホーバスHCの続投が決まり、11月21日(木)に栃木県・日環アリーナ栃木で開催されるアジアカップ予選に向けた候補メンバーも発表された。今回のメディアデーは男子代表の再出発となる、重要な機会となった。 モンゴル、グアムとの「アジアカップ予選候補Window2」に向けて招集された選手は23名。富樫勇樹や比江島慎といったオリンピック組が8名、大浦颯太や山﨑稜といった初招集選手も多い。メディアデー直前に渡邊雄太の離脱などの変更はあったものの、総じてフレッシュなメンバーを迎えた印象が強い。 ホーバスHCは今回の合宿について「Bリーグのシーズン中なので選手たちも本当に疲れていると思います。小さいケガをしている選手も多いです。バランス的にも若い選手が思ったよりも多いですが、自信はあります」と笑顔を見せた。 新顔の中でも注目を集めるのはやはり、学生から唯一選出された渡邉伶音(福岡大附大濠高3年)だろう。204cmの長身ながらドライブや3Pシュートなどのアウトサイドのプレーに長け、現日本代表でいえば、ジョシュ・ホーキンソンや井上宗一郎のようなストレッチタイプのビッグマンだ。高校生ながら日本代表のディベロップキャンプにも招集されており、今後の日本バスケ界を背負っていく一人と言えるだろう。 そんな渡邉への関心は強く、取り囲んだメディアの数はざっと50人を超えただろう。これほどの注目を集める中でインタビューに答えるのは初めてだったという渡邉は、開口一番「初めてなので、ちょっと緊張しています」と苦笑い。「(A代表としての)日本代表はデベロップキャンプを除くと初めて選出されました。まだ始まったばかりで緊張感も完全に抜けているとは言えないですが、自分が子どもの頃から見てきた選手たちと一緒にやれているのがすごい楽しいですし、毎日刺激をもらっています」 渡邉の最大の強みは、前述したプレーの柔軟性だ。中学時代から2mを超えるサイズながらインサイドに固執せず、リングに正体したプレーもためらわなかった。大濠高進学後も、片峯聡太コーチは渡邉をインサイドの柱としながらも、時にフォワードのように立ち回ることを許し、彼のプレーの幅はさらに広がった。 ホーバスHCは渡邉のプレーについて「昨日、今日でオフェンスのコールやステップ、考え方、ディフェンスの部分なども全部詰め込みました。だから伶音は迷っている、考えています(笑)」笑うが、続けて「でも、彼は頑張っていますし、自分の役割を分かっています。ピック&ポップで3Pを結構打っているし、良い感じです」と高評価を与えた。 初招集ながら自身の役割を理解している点は、高校やアンダーカテゴリーの代表活動で培った知見が生きている証しといえるだろう。「4番ポジションとして3Pシュートをしっかりと空いたらどんどん打っていくこと、スペーシングをしっかりと把握して器用にプレーすることが自分の求められてること」と、渡邉は自陣の役割を明確に口に出して説明する。 もちろん、フィジカル面ではまだBリーグでプレーする先輩選手たちには遠く及ばない。特に川真田紘也の名を挙げ「フィジカルの部分はA代表と比べても、世界とクラブでもまだまだ劣ってあると自覚しています。特に川真田選手は力強さをすごく感じましたし、ピック&ロールでダイブしてくると少し怖さもあります。でも、どんどん体をぶつけていきたい」と話す。その川真田も高校生である渡邉とコミュニケーションを取りながらチームに溶け込む手助けをする一方で、「仲間でありライバル。練習中はもちろん、全力でやります。それが伶音にとって『これが今のA代表か』という指標の一つになるかもしれません。そこから自分と見つめあってもっとレベルアップするかもしれないので、手抜きとかはなく全力でぶつかっています」と、あくまでも同じ土俵で切磋琢磨している。高校では味わえないハイレベルなプレーに、フィジカルをはじめとした強度の高さ。これは間違いなく渡邉をさらに一段階成長させるはずだ。 一方で、所属元の大濠高では彼は紛れもない大黒柱。約1か月後には高校生活の集大成となるウインターカップが迫っており、渡邉本人としても、チームとしても、その大会に懸ける思いは強い。ウインターカップにピークを持ってくるように調整するとすれば、この時期に大黒柱を欠くことはチームにとってはデメリットにもなりかねない。それに、もし代表活動中でケガをしてしまえば…そんなことが頭によぎることもあるだろう。 大濠高の渡邉と、日本代表の渡邉──このバランスをどうコントロールしていくのか。それを渡邉に問うと、片峯コーチからの言葉と共にこう答えてくれた。 「メンバーに選ばれて、片峯先生は『頑張ってこい』と送り出してくれました。(A代表は)日本で一番上のカテゴリーなので、もちろんフィジカルの部分などでケガをしてしまうこともあるかもしれませんが、(片峯コーチからは)『本気で選ばれるくらいの気持ちで頑張ってこい。それでもしケガをしてしまってウインターカップに出られなくなってしまったとしても、それは立派なことだと思うから』という言葉をいただきました。代表メンバーに選ばれる、選ばれたいという気持ちを持ちつつ、その後のウインターカップまでの期間は、この合宿で得たものを自分でもっと発揮しつつ、大濠のチームメイトにも落とし込んでいけたらいいなと思います」 片峯コーチの言葉には、多少は渡邉の迷いを振り解くためのリップサービスな部分はあるだろう。だが、片峯コーチ自身がU18日本代表のスタッフとして育成・強化の最前線に立って指導をしている。だからこそ、大濠高での結果と同等か、それ以上に渡邉の将来性を重んじている。 現時点でも204cmながら走れて、ハンドリングができて、シュートも打てる。もし彼がこれからの数年で世界基準のフィジカルとメンタリティを手に入れることができれば、4年後のロサンゼルス・オリンピックに向けた男子代表はますます楽しみになる。
写真・文/堀内涼(月刊バスケットボール)