認知症の母のために開いた喫茶店 接客が話題となり交流の場に…認知症になっても暮らせる取り組み各地で
認知症の人が暮らしやすい「認知症バリアフリー」社会の実現に向けた取り組みが広がりつつある。飲食店や理容店などで、経営者らが認知症の特性や接し方を理解し、安心して立ち寄ってもらえる店作りに取り組む。国や産業界が連携し、当事者が利用しやすい商品やサービスの開発も進む。(野島正徳、小沼聖実) 【図解】ペットボトルのふたはどう開けている? 開け方でわかるフレイルのサイン
商店や交通機関など 理解し支援
東京都千代田区の喫茶店「カフェのん散歩」は、「認知症のおばあちゃんが元気に働く店」と評判だ。 「ばあちゃん、うどんができたよ」「はいよ」 11月22日昼頃、経営者の藤原紀子さん(60)が調理場から呼びかけると、テレビを見ていた母親の敏子さん(89)が椅子からスッと立ち上がり、配膳した。お客から「ありがとう」と声をかけられ、「熱いから気をつけてよ」と笑顔を向けた。 敏子さんは2018年頃に認知症と診断された。20年2月に夫が病気で亡くなると、自宅で1人ふさぎ込むようになった。かつて夫とクリーニング店を営み、本来は人と話すのが好きだ。そんな敏子さんに生きがいを取り戻してもらおうと、藤原さんが21年11月、自宅を改装して開店した。 敏子さんの接客が地域で話題になり、認知症の人や家族が訪れるようになった。常連客の女性(61)は、認知症の父親(86)と来店した際、父親が敏子さんと同じ出身地の岩手の話題で盛り上がり、表情が明るくなったという。「認知症になっても、できることはたくさんあるということを目の前で見せてくれる」と言う。 店で知り合い、困り事を相談し合う人たちもいるという。22年6月からは、当事者同士が交流できるように、区が定期的に開く「本人ミーティング」の会場として店を開放している。 藤原さんは「母は人の役に立つ喜びを感じ、元気でいられる。お互いさまの心で気軽に立ち寄れる店でありたい」と語る。
超高齢化で誰もが認知症になりうる社会を迎え、安心して外出や社会参加できる地域作りは急務だ。厚生労働省研究班の推計では、22年に443万人だった認知症高齢者は40年には584万人となる。 認知症になっても住み慣れた地域で普通に暮らし続けていけるよう、ハード、ソフトの両面で障壁を減らす試みは「認知症バリアフリー」と呼ばれている。飲食店や金融機関、公共交通機関の利用など、日常生活のあらゆる場面が対象だ。 買い物の会計などで戸惑った経験のある認知症の人は多い。周囲の人の心ない対応から、嫌な思いをすることがある。トラブルを避けるため家族に外出を止められるケースもある。 今年1月に施行された認知症基本法に基づき、政府が3日に閣議決定する予定の「認知症施策推進基本計画」でも、バリアフリー化の推進を掲げている。