認知症の母のために開いた喫茶店 接客が話題となり交流の場に…認知症になっても暮らせる取り組み各地で
先進的な取り組みもある。秋田県羽後町の理容店「ヘアーサロン タカハシ」の店先でクルクル回るのは、オレンジと白のサインポールだ。赤と青ではなく、認知症支援のシンボルカラーを採用し、「認知症の人に優しい店」と分かるようにしているという。 経営者の高橋直輝さん(55)は、お客が会計を忘れている時は、「財布はどこへしまいましたか?」と声をかけ、「ああ、上着のポケットだ」と答えるのを待ってレジへと案内する。気まずい思いをしてほしくないからだ。「自分らしい髪形に整え、おしゃれを楽しむのは、年を取っても当たり前のこと。暮らしに潤いや張りが生まれるよう、お手伝いしたい」と語る。 愛知県豊橋市の「豊橋鉄道」は、駅員や運転士など全社員約200人が、認知症を正しく理解し、当事者らを応援するボランティア「認知症サポーター」の養成講座を受けた。 駅員らは、券売機の前で困っている高齢者に声をかけ、切符の購入をサポートしたり、ホームのベンチに座り続ける高齢者を保護したりしているという。 ただ、こうした試みは一部にとどまる。国の基本計画は「認知症の人が社会的に孤立している状況がいまだにある」と指摘。市区町村が、認知症への理解者や支援に積極的な商店、企業を増やす施策を進めることが求められる。
「使いやすい商品」開発も
経済産業省などは、認知症の人との意見交換を通じて使いやすい商品を作りたい企業と、当事者をつなぐプロジェクトに取り組む。 企画段階のヒアリングや試作品のテストに参加してもらい、困り事を解決できるサービスの開発や商品改良につなげる狙いだ。2021年度に始まり、目立つ色のスイッチが付いたガスコンロや、かかとを合わせずにはける靴下などの商品化が実現した。今年度は46企業が参加し、100人以上の当事者が協力する。 「広い脱衣所では自分の衣類かごが分からなくなることがある」。京都府京丹後市で3軒の旅館を営む「小谷常」は、認知症の人の体験談を聞いて、大浴場でかごに付ける名札を作れるよう紙とペンを用意したという。女将(おかみ)の小谷奈穂さん(50)は「さらに意見を聞いて快適に泊まってもらえる工夫を考えたい」と話す。 トヨタ自動車は、道に迷う心配をせずに外出できるよう、道案内サービスの腕時計型端末の開発に取り組む。ファミリーレストラン「デニーズ」の運営会社は、読みやすいメニュー表への改良を目指している。(2024年12月3日付の読売新聞朝刊に掲載された記事です)