「知らないおじいさんだと思っていた」歯は全部抜け、すえた臭いが…20年ぶりに再会した“自慢の兄”がまったくの別人になってしまった理由
「時が経つのはなんて早いんだろう。そういえば、兄ちゃんは元気かな」 裕子は、地元鹿児島を離れ、兵庫県で結婚し、一人息子に恵まれていた。現在は、企業の社員食堂の調理員としてフルタイムで勤務し、日々の仕事と家事に追われていた。 自らも50歳になり、一人息子は成人してようやく手が離れた。 ちょうど、タイミングよく、東京に住む鹿児島時代の同級生たちが共に花見をするという話が持ち上がっていた。 兄も私ももうお互い歳だし、兄は独身の一人暮らしで、何かと不便なこともあるのではないか。この際に、一度くらいは顔を合わせておきたい。いい機会だと思い、兄の携帯に電話した。 「ねぇ、今度、地元の同級生に会いに、東京に行くんだ。兄ちゃんとも、だいぶ会わないでブランクが長かったじゃん。今度こそ、絶対会おうよ」 「そうか。それなら久々に会うか」 大介がすんなりと同意してくれたので、裕子は嬉しかった。 当日は、花見の前に、東京駅の改札で、待ち合わせることにした。 しかし、当日約束の時間になっても、どこにも兄らしい人物は見当たらなかった。 「待ち合わせ場所、間違ってないもんね。どこにいる? いないやん?」 人ごみの中を、携帯電話を片手にキョロキョロと見回すが、兄の姿はどこにもなかった。ただ、改札の外に、初老と思われる白髪交じりの男性が「自分の今いる場所はここだ」と言いながら、携帯電話を片手に辺りを見回していた。裕子の視界には入ってはいたものの、ずっと知らないおじいさんだと思っていた。しかし、その人物こそが、まさに兄であった。 兄の外見は、20年前とは全く別人で、実年齢から想像していた姿よりはるかに老けて見えた。体形はやや小太りで、足取りはヨタヨタと頼りなかった。歩くのも苦しそうだった。裕子は、そのあまりの変貌ぶりにショックを受け、思わず目尻から涙が落ちそうになるのを必死にこらえた。 兄ちゃん、この20年で何があったの――。 心の中で、そう叫ばずにはいられなかった。しかし、そんな感情は露ほども見せず平静を装った。
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