ドイツ代表はなぜ負けたのか。決定力不足は二の次、スペイン代表を遥かに下回っていたこととは?【ユーロ2024分析コラム】
UEFAユーロ2024(EURO2024)準々決勝、スペイン代表対ドイツ代表が現地時間5日に行われ、2-1でスペイン代表が勝利した。どちらも自分たちの持ち味を発揮した中で、なぜスペイン代表は勝ち切ることができたのだろうか。敗れたドイツ代表との間にあった差を分析する。(文:安洋一郎) スペイン代表vsドイツ代表 ハイライト
●スペイン代表ドイツ代表との死闘を制する 事実上の決勝戦とも言われたスペイン代表vsドイツ代表の好カードは、“死闘”と呼ぶに相応しい白熱した試合展開となった。 両国ともに共通して言えるのが、ラウンド16までの4試合で見せてきた持ち味をこの大一番でも発揮していたということだ。 スペイン代表はラミン・ヤマルとニコ・ウィリアムズの両WGの質的優位性でサイドを掌握し、51分にヤマルの突破から先制ゴールをゲット。この試合でもトランジションの局面では相手チームを上回っており、左SBのマルク・ククレジャやロドリのところでボールを引っかけてから得意のカウンターでゴールに迫っている。 一方のドイツ代表は前半のシュートがわずか3本と、先発メンバーでは試合を動かすことができなかったが、ベンチの交代策とロングボール、クロスを中心とする戦術変更で最終的に自分たちに流れを持ってきた。 特にスーパーサブのニクラス・フュルクルクを投入して前線に明確なターゲットを作る形は、これまでの4試合でも効果を発揮しており、89分にクロス攻撃から途中出場のフロリアン・ヴィルツがゴールを奪って同点に追いついた。 89分に1-1となった時点でスペイン代表は守備固めにシフトしていたことから3トップ全員をベンチに下げており、流れは追いついたドイツ代表へと傾いていた。しかし、結果はスペイン代表の勝利。延長戦終了間際の119分にミケル・メリーノが劇的な決勝ゴールを決めて準決勝進出を決めた。 なぜ、ドイツ代表は自分たちの流れに持って行ったにも関わらず、勝利を逃してしまったのだろうか。 ●勝利したスペイン代表と敗れたドイツ代表にあった差 先述した通り、ドイツ代表は後半の中盤以降からペースを掴んでいた。77分のフュルクルクのポスト直撃のシュートや82分のカイ・ハヴァーツのループシュート、105分+1分のフロリアン・ヴィルツの左足でのシュート、120+4分のフュルクルクのヘッドなど、ゴールまで紙一重の決定機を何度も作り出した。 どれか1つでもネットを揺らせば勝利に近づいた可能性があるため、敗因を「前線の決定力不足」と捉えることができるかもしれない。 しかし、これはあくまでも攻撃陣だけの視点であり、守備陣にフォーカスすると遥かにスペイン代表の方がチームとしてのディフェンスが機能していた。 スペイン代表はグループリーグ初戦のクロアチア代表戦で、何度もCBとボランチの間に生まれるスペース(ライン間)を使われて決定機を作られていたが、ドイツ代表との試合ではこれを修正。中央に人が集まりやすいユリアン・ナーゲルスマン監督の戦術に合わせて、縦と横の距離感をコンパクトにして守り、両チーム合わせて最多となる7つのタックルを成功させたアンカーのロドリのところで何度もボールを奪った。 この守備の形で特筆すべき活躍を披露したのが、ダニエル・カルバハルとマルク・ククレジャの両SBだ。彼らは内を締めつつ、外にボールが出た際もボールホルダーにプレッシャーをかけて対応。前者は試合終了間際に退場、後者は89分の場面でヨシュア・キミッヒに空中戦で競り負けて失点に絡んでしまったが、試合全体でのパフォーマンスは素晴らしかった。 一方のドイツ代表はキックオフ直後から最後まで、ライン間に広いスペースが生まれており、ここを何度もスペイン代表に突かれた。 ●ドイツ代表にあった「守備での隙」 51分の失点シーンがわかりやすい例だろう。スペイン代表の右WGヤマルが右サイドからドリブルで運んでボックス内へと侵入した際に、ボックス外から走り込んできたダニ・オルモに誰も対応できないままシュートを打たれてしまった。 他にもこのようなシーンはいくつかあり、スペイン代表は試合を通して放った18本のシュートのうち13本がボックス外からのものだった。ドイツ代表がバイタルエリアにプレッシャーをかけることができていなかったことを証明するデータとも言えるだろう。 なぜ、ドイツ代表は相手にライン間を使われる問題を解決することができなかったのか。 ●ドイツの守備が苦しかった理由 1つ目の理由はトニ・クロースの相方となる選手の低調なパフォーマンスだ。先発したエムレ・ジャンは対応で後手を踏み続けて前半で交代。後半開始から入ったロベルト・アンドリッヒも試合に入るのに時間がかかり、出場直後は凡ミスを連発した。失点シーンの場面でも同選手のポジショニングが悪く、下がり過ぎてCBと近い距離に立っている。 2つ目の理由はイルカイ・ギュンドアンがロドリにマンマークに付いていたことだ。ロドリが低い位置で組み立てに参加すれば、それにギュンドアンがついていくため、ゴール前に戻って守備をするのが遅れる。 これはギュンドアンが悪いのではなく、チームとしてロドリ対策を敷いたことによる影響であり、本来はダブルボランチでバイタルをカバーしなければいけなかった。トニ・クロースも守備でかなり後手を踏んでおり、それをカバーして欲しかった相方も選手交代があった中でも微妙なパフォーマンスに終わったことで、守備で苦しくなってしまった。 こうした「守備での隙」は大一番において致命的なものとなる。ドイツ代表としては同点ゴールを決められたダニ・オルモを最後まで捕まえることができず、119分の勝ち越しゴールも彼のクロスから生まれたものだった。 スペイン代表もウナイ・シモンのパスミスを引っかけて決定機を作られるシーンを筆頭に隙もなかったわけではないが、これはあくまでも個人のミス。ドイツ代表はチームとして守備での隙があり、それを最後まで修正できなかったのが敗因の一つと言えるだろう。 クラブでの監督時代に「トーナメントで勝てない」と言われ続けたナーゲルスマンは、またしても大一番に勝つことができなかった。 (文:安洋一郎)
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