じつは、ここ20年ほどで「海のある天体」は、次々と見つかっている…「地球外生命の発見」が、一気に現実味を増した「衝撃的な発見」
もう一つの「重大な発見」
カッシーニはもう一つ、重大な発見をしました。 ホイヘンスを切り離したあと、土星の他の衛星たちも探査したところ、その一つ、エンケラドゥスがきわめて注目に値する天体であることがわかったのです。2005年7月の接近では、この衛星の南極の近くには虎の縞のような模様があること、そして、そのあたりから物質が噴き出していることなどがわかりました(本記事冒頭、扉の写真)。 さらに2008年に再度接近したときには、噴き出している物質の質量分析により、水、一酸化炭素、メタンなどの単純な物質のほか、有機物の存在も示されたのです(図「エンケラドゥスから噴出した物質の質量スペクトル」)。さらに、微小なシリカも検出されました。これらの分析から、エンケラドゥスの氷の下には、さまざまなものを含む水でできた海があることが確実と考えられるようになったのです。 しかも、その海底には水温100℃以上の熱水活動があることもわかりました。以前の記事*で述べたように、地球の海底熱水噴出孔は化学進化や生命誕生の場の有力候補とされています。生命の誕生には一般的に液体の水、有機物、エネルギーが必要と考えられていますが、地球以外の天体でこの3つが同時に存在することが確認されたのは、この天体のみです。 エンケラドゥスは太陽系生命探査のターゲットの最右翼といっていいでしょう。 *以前の記事:まさに、かつての常識をひっくり返した…深海底からの「驚きの報告」 そして、こうした、以前から生命の存在が期待され、探査の対象となってきたハビタブルゾーンの外側に、さらなる天体が見つかってきました。
太陽系に広がるオーシャンワールド
昔ながらのハビタブルゾーンの外側に、エウロパ、タイタン、そしてエンケラドゥスと、生命の存在が期待される天体が次々と見つかりました。地下まで含めれば、液体の水の存在はそれほど希有なことではないとわかってきたのです。そうした観点から調べなおすと、地下に液体の水(海)を持つ天体候補がさらに見つかってきました。 木星系では、エウロパのすぐ外側を回る衛星のガニメデにも、地下に水が存在する証拠が見つかってきました。ガニメデは磁場を持つため、オーロラが発生します。磁場の原因は、氷の下に電気伝導率が高い塩水が存在するためと考えられています。そして海の深さは100kmほどと考えられますので(地球最深のマリアナ海溝は約10km)、地球の海よりもはるかに大量の水をたたえている可能性が高いのです。 また、小惑星帯に存在するケレスからも、水蒸気を含む物質が噴き出ていることがハーシェル宇宙望遠鏡の観測から示唆されました。ケレスは2006年に冥王星が惑星から準惑星に「格下げ」になった際に、小惑星から準惑星に「出世」した天体です。 そのほか、木星の衛星のカリスト、土星の衛星のミマス、海王星の衛星のトリトン、さらに冥王星にも、地下海がある可能性が示唆されています。これら、ハビタブルゾーンの外側で地下海を持つ天体を総称して「オーシャンワールド」とよばれるようになりました。今後の太陽系生命探査は、火星とオーシャンワールドが2本柱となって進められていくでしょう。 これからのオーシャンワールド探査としては、ガニメデをターゲットにして2023年に打ち上げられた木星氷衛星探査「Jupiter Icy moons Explorer:JUICE(ジュース)計画やNASAが打ち上げを予定している「エウロパ・クリッパー計画」などがあります。 その動向については、『生命と非生命のあいだ』で取り上げましたのでご一読いただくこととして、ここでは、なぜこうした地球外の他の天体に、生命の痕跡を求めるのか、原点に立ち返ってその意義を考えてみましょう。 生命と非生命のあいだ 地球で「奇跡」は起きたのか
小林 憲正
【関連記事】
- 【新シリーズ】なんと、この「地球の生命」が持つアミノ酸は「特別な比率」だった…地球に飛来した「マーチソン隕石」が、生命科学者に投じた衝撃の波紋なんと、この「地球の生命」が持つアミノ酸は「特別な比率」だった…地球に飛来した「マーチソン隕石」が、生命科学者に投じた衝撃の波紋
- もしも「地球外生命」が見つかったら…原始地球で繰り広げられた「生命誕生のシナリオ」は、どう塗り替えられるのか
- 「水」の痕跡があった…! 「大気」が似ていた…! 今も地球からもっとも遠くを飛ぶボイジャーが、地球を沸かせた「衝撃的発見」
- 地球以外に存在するのか…「地球外生命」への大きすぎた期待と、じつに意外だった「ヴァイキング探査の結果」
- まさに、かつての常識をひっくり返した…深海底からの「驚きの報告」