ドリス・ヴァン・ノッテン“いつも通り”な有終の美 涙と多幸感に溢れたラストショー
今回発表したのは、全てメンズウエア。しかし、モデルにはゴッスアンのほかにも、初期のショーから歩いているクリスティーナ・デ・コーニンク(Christina De Coninck)をはじめ、各時代の「ドリス」を象徴するように、さまざまな世代の男女が入り混じっていた。その背景には、「誰でも着たいものを着ればいいという、とても大きくハッピーな一つの世界」というドリスの考えがある。そして、「今回のモデルたちは皆、家族のような存在。私にとっては、この瞬間にみんなが私の周りにいて、祝ってくれることが本当に重要だった」と説明する。
フィナーレではモデルたちが一斉に登場し、肩を組んだり笑い合ったりしながら、シルバーのランウエイを通り過ぎていく。最後にドリスが登場すると、約1000人のゲストはスタンディング・オベーションで出迎えた。ドリスを含め、声援を送るゲスト、涙するゲスト、勇姿を収めようとスマートフォンを掲げるゲスト、視界に映る全ての人が笑顔だった。会場には退任の一報で動揺したゲストも多かったはずだが、“どの雲にも銀の裏地がついている(Every cloud has a silver lining)”ということわざのように希望と多幸感に溢れており、本当に最後だとは思えないほど“いつも通り”だった。
大舞台を終えたデザイナーの心境
ドリスはバックステージで、今の心境について「まだ分からない。ちょっと圧倒された感じだけど、とてもとても幸せだ」と充実した表情で語った。「明日からのインタビューの仕事を終えたら、パートナーのパトリック(・ヴァンヘルヴェ、Patrick Vangheluwe)とイタリアにある別荘へ行って、次の計画を練る。詳しいことが決まったらまたお知らせするよ」。ショー前に揺れ動いていた心境は完全に払拭したのだろう。今後について語る口調は晴れやかだった。これからも「ドリス ヴァン ノッテン」のアドバイザー的な役割を担いながら、ビューティや店舗デザインにも関わる予定だという。気がつけば、移り気だったパリの空が、誰からも愛されたデザイナーを祝福するように晴れ渡っていた。