ドリス・ヴァン・ノッテン“いつも通り”な有終の美 涙と多幸感に溢れたラストショー
最初のショーに登場したモデルで開幕
無音の静寂が包む中、ファーストルックに現れたのは、「ドリス ヴァン ノッテン」最初のショーでもオープニングを飾ったアライン・ゴッスアン(Alain Gossuin)だった。ネイビーのダブルブレストコートは、同ブランドの最近のキーシルエットの一つロング&リーンの直線的なフォームで、襟を立てたメンズでは定番のユニホームライクな着こなし、そして裾にたっぷりボリュームを持たせたスラックスに軽快なサンダルを合わせてバランスよくまとめた王道の「ドリス」スタイルだ。続くルックからは、素材の新たなアプローチが際立った。シアー素材のトップスやパンツが体をふわりと包み、英国式テーラリングとワークウエアがベースの硬派なスタイルに柔らかさを与える。
ほかにも、クラシックなステンカラーコートには透明なリサイクルポリエステルを使ったり、中綿にはリサイクルカシミヤを使ったりと、ルールの多い男性服を新たな素材使いで解放する。オーガンジーのトレンチコートや、透明のカラーフィルムのようなミリタリーブルゾン、起毛感のあるロングカーディガンなど、バリエーション豊かな素材感でコレクション全体にコントラストを加えた。素材感以外にもさまざまな手法で相反する要素を対比させるが、過去のコレクションと結びつけたがるのがファン心理というもの。ジャケットの左ラペルと左袖には金糸で刺しゅうした毒々しい植物は23-24年秋冬シーズンを想起させるし、クラシックなコートにラペル裏のホワイトを効かせる09-10年秋冬シーズンを思い出す。何なら銀箔ランウエイも、06-07年秋冬のウィメンズ・コレクションの金箔ランウエイを彷彿とさせる。しかしドリスは、「ベスト盤を作りたかったわけではない。まだ証明したいことがあったし、一歩前進したかった」と前を向いていた。
溢れる色柄と素材感
後半は色と柄が溢れ出し、終盤に向けて疾走感が加わっていった。シルバーを眩しいほどコーティングしたジャケットやギラリと光沢を放つパープルのコート、アウターはサーモンやフューシャといったトーンが異なるピンクを用意し、光の加減でゴールドにもシルバーにも見えるメタリックなトップス、墨流しの技法で花を描いたコートやパンツなど、アイテム単品の強さが徐々に増していく。ゴールドの素材を多用したのは「壮観だと思ったから。シルバーのランウエイにすると決めたときから、終盤はゴールドのルックにしようと考えた。シルバーとゴールドのマリアージュは、素敵だから」とドリス。一方で素材感はますます軽やかになり、シアーな素材が強烈な色柄をオブラートに包んだようにマイルドにした。ラストは、ファーストルックと同じクラシックなダブルのロングコートに、フューチャリスティックなゴールドのパンツを合わせた。