自治体に“DX化”は本当に必要か? まずすべきは自治体がどうしたいのか考えること
加古川市以外の自治体にも手を差し伸べたい
--今は加古川市役所を退職されて、民間企業に移られました。退職されたのはどうしてですか? シンプルな理由です。全国には1,741自治体ありますが、私は加古川市のことしかやれてない。でも困っている自治体はもっとある。 加古川市には約26万人が暮らしていますが、10万人を切っている自治体は多いですよね。ひょっとすると何百人の地域もあると思いますが、そこでもDXやれ、デジタルやれと言われている。 近年、講演会などの依頼を受けて自治体などを回っていて、職員数が200人ほどの規模の自治体にも行くことがあります。そうした自治体では、DXをどう推進したらいいのかわからずにいるんです。 加古川市役所で私が言ったことで地方自治体などが勇気を持ってもらえるなら頑張りたい。それができるのは体力的な問題から見ても、今の時期しかないなと思って退職し、現在の道に進みました。 また「東京一極集中」という言葉がありますが、それを体感してみたかったのもあります。加古川市役所に25年勤めていたので、当たり前ですが東京で生活したことなかったですし。 --都内で暮らしてみてどうですか? 語弊があるかもしれませんが、東京でウェルビーイング、いわゆる豊かさは高まらないなと思いました。便利だから幸せというわけではないんだなと実感しています。 例えば田舎だと、交通の不便さなどはあれど、そこに住んでいる人の顔が見える。「どっから来たの」と話しかけてくれるおじいさん、おばあさんがいる。子どもが走り回る姿が風景として思い浮かぶ。都心はそう思い浮かばない。それが東京一極集中の結果だと思う。 果たして首都直下地震などの大災害が起きた時に、都民はお互いを助け合えるのかだろうか。それを見ないとわからない。
--現在はTIS社で仕事をされています。どんな仕事をしていますか? 今は政府に対して、どういう支援を自治体に対してできるのかなど意見交換をしたりしています。日本国内をどう良くしていくのかは政府が決めないとできない部分がありますから。その政府が考えている政策に対して、「こういうアプローチできる」というのを伝えていくことができればと思っています。 あと民間企業に行った理由について補足なのですが、自治体職員は「民間企業が」と発言する。企業の人は、「自治体は」と話す。立場立場の話をしたがる。それぞれの人はそこにいたことがないはずなのに。だから自分自身で両方の働き方を見てみたかった、知りたかったからですね。 結果的に、自治体がどう思っているのか分かりつつ、企業としての考え方もわかるようになってきました。 --自治体と企業それぞれで働いてみて、違いを感じることはありますか? スピード感ですかね。自治体の仕事はよく遅いと言われますが、それは市民に対して丁寧に説明しないといけないからです。自治体は市民というお客さんから逃げられないし、対応も間違えられない。自治体は今日やったことを明日できないといけない論理です。決して企業は間違えていいということではないですけどね。 でも、企業は昨日やっていたことを明日やると会社が潰れます。スピード感持って新しいことを生み出さないと、株主に説明できない。企業の業務内容にもよりますが、基本的には文化的に違うもの同士かと思います。 私は一応どちらも理解し始めているので、企業と自治体をつなぐ、翻訳者もしくは公共財のような存在になれたらと思っています。 --自治体を離れた後、自治体での仕事は多田さんにどう映っていますか? 人口が減っていくので、自治体職員も少なくなる。その一方で仕事はどんどん膨張しているんです。なぜなら市民のニーズが多様化し、いろいろなことにカスタマイズしたサービスをしないといけないから。となると市役所は耐えられなくなります。最終的に自治体の仕事が維持できなくなるのではないかと思います。 今は自治体がすべき仕事と、しなくていい仕事を選別する時期に来ているのかなと。 自治体の人たちは長い間、市民サービスや市役所の仕事を丁寧に築き上げてきているので、デジタルを使ったり、民間企業にできることを任せたりとか、方法を考えていくことが必要ですね。 --自治体のデジタル化、DX化はどうしたら実現できるのでしょうか。 デジタルを使わないといけないと思っているのがそもそもの間違いだと思います。そう考えてしまうのは、デジタルに支配されている感じがします。例えばメッセージアプリのLINEとかは、使わなきゃいけないと思って使ってないですよね。ツールとして自然と使っている。 ことデジタル、DXとなると、道具の話をしたがるんです。ここがそもそもの根底の違いですね。やりたいことがわかった時に、どの方法をチョイスするのかが大事だと思います。考え方の問題がクリアになっていないと「何をするんだっけ」となってしまう。 自治体でデジタルトランスフォーメーション(DX)やスマートシティについて研修をする時に、皆さんの頭の中では「DXをやらないといけない」とわかっているんですが、では「DXとは何?」「スマートシティとは何?」と聞くと、皆さんの頭の上にハテナが浮かぶ。実はDXやスマートシティを定義しているものって何もないと思っています。自治体ごとに課題も異なれば、当然ソリューションが違っていて当たり前だと思いますし。 例えばスマートシティであれば、街を作るというものに対してのソリューション的なアプローチとして存在している言葉ですよね。だから自治体がどうしたいのか、「WANT」があればいいんです。そこにデジタルが必要であれば使えばいいですし、アナログでも良いと思います。今はアナログ「も」デジタル「も」使える世の中になっていますから。 --最後に、多田さんとして今後取り組みたいことを教えてください。 次の世代をどう育てるのか、次にバトンを渡す準備をしないといけないと思っています。若い人にも私が持っている知見、経験を知ってもらいたいなと。自分が若い時には知見などを聞く機会なかったので、誰かが私の話を聞いて「多田でもできるんだったら頑張ろう」と思ってもらえたら嬉しいですね。人は何千年もいろいろなものを繋いでやってきているように、そうしていかないと世の中良くならない気がしています。 DXという言葉に関しては、今の20代30代の若い人はデジタルが当たり前になっている人です。ChatGPTのことを高校生だって知っていて、使えている。黒電話を知らずにスマートフォンを知っている高校生に、わざわざDXの話はしても仕方ないですよ。むしろ彼らの方から学ぶべきことが沢山ある。 若い人にインプットされてないのは、どうしたらいいのかという知見、経験です。彼らがどう目標を立てて、進んでいくのか、というところを伝えていき、サポートすることができればと思っています。
取材・文:星谷なな /編集:岡徳之(Livit)