異例の“争わない”裁判で認められた「性別変更後」に生まれた子どもとの父子関係 担当弁護士が語る性別変更制度の課題
「誰が関係を引き裂いてるのか、明らかにさせたかった」
弁護士JP編集部では一連の裁判を担当した仲岡しゅん弁護士を取材。裁判を振り返りつつ、最高裁の判断を引き出した背景や、「性別変更」の課題、性同一性障害特例法改正に向けた議論の現状について、幅広く話を聞いた。 本件で仲岡弁護士は前述した「認知の訴え」のほか、国や行政に対し「地位の確認訴訟」「戸籍法に基づく異議申し立て」の訴えも起こしていた。 「親子関係を認めさせるため、すべての手段を試すことにしましたが、『認知の訴え』がメインになると思っていました。 国や行政を訴えるとなると、どうしても難しい議論が必要になってしまいますが、子どもが父親に対して認知を訴えるという形をとれば、シンプルに判断を求めることができるからです」(仲岡弁護士) また、今回の訴えが、通常の裁判と性質の異なるものであることも、「認知の訴え」を起こした理由の一つだったという。 「通常は『慰謝料を払ってくれ』『払いたくない』、『離婚したい』『したくない』といった争いがあるからこそ、紛争が発生します。 しかし今回、ご当人たちは『法的にも親子として認められたい』という点で一致していました。 ですので、裁判を通じて『一体誰が、親子の法的な関係を引き裂いてるのか』を顕在化させたかったというのもねらいでした。 つまり『当事者同士が争わない裁判』という形をあえてとり、行政や司法が親子の法的な関係を引き裂いているという構造を明らかにさせたかったのです」(同前)
裁判でも争点、子なし要件「早急に廃止すべき」
一方、裁判では、未成年の子がいた場合に性別変更を認めない「子なし要件」(性同一性障害特例法3条)との整合性も争点の一つとなっていた。 これに対し最高裁は、判決や補足意見で「子なし要件」は本来「子の福祉への配慮を目的としたもの」であり、「父子関係を認めない理由にはならない」と言及。さらに同法が「性別変更後に生殖補助医療を用いて子どもが生まれる可能性」を禁じていない点も指摘した。 「本件は、親が性別変更をしていますが、実際に子どもがいるわけで、『子なし要件』をすり抜けたケースと言えます。未成年の子どもを持ちながら、性別変更ができ、その上で親子関係を求めたことについて、ネット上では『脱法だ』と批判する人もいます。 しかし、『子なし要件があるからと言って、親子関係を認めない理由にはならない』というのが今回、最高裁の判断で示されました。 そもそも、性別の変更と、性別変更後に子どもとの親子関係を作るかどうかは別の問題であり、ネット上などの批判は的外れだと思っています」(仲岡弁護士) また、この「子なし要件」についても、「早急に廃止を考える必要がある」と仲岡弁護士は断言する。 「性別を変更するのに、このような要件を定めている国は今現在、日本以外にはありません。子どもが小さい時であるほど、親が性別を変更しても、親子関係に影響が出にくいというアメリカの研究結果もあります。 想像してみてほしいのですが、子どもが物心つく前から、親が性別変更していたほうが、物心ついたあとで親が性別変更するより、なじみやすいのではないでしょうか。 未成年の子どもがいるからといって、一律に性別変更出来ないとするよりも、子どもの意見を聞いたり、親子関係を調査して問題ないかを確認したりして判断したほうが良いと思います」