<わたしたちと音楽 Vol.30>齋藤友香理 音楽を通して身につけた、自分の意思を伝える力
意見を求められてつまずいてから、 自分の気持ちを素直に伝えるように
――そういった環境で過ごされて、齋藤さん自身には何か変化はあったのでしょうか。 齋藤:変化したと思います。まずドイツに行って驚いたのが、レッスンで「君の意志はないの?」と言われてしまったこと。「君はどう思うの?」と意見を求められて、周りの人はどんどん自分の意見を発表しているけれど、自分は最初それに戸惑ってしまいました。 ――「意見を持つ」ということに慣れていなかったところから、どうやって変化していけたのでしょうか。 齋藤:やっぱり、自分に素直になることですかね。「これ言ったらどうなっちゃうだろう」と考えすぎると何も言えなくなるので、あまり考えないようにしています。あと大切にしているのは、自分が感じたことを自然に伝えるのと同時に、「なんでそう思ったのか」を自分に深く問い直すこと。その方が、出てきた言葉に説得力が生まれると思うんです。 ――自分の言葉に説得力を持たせるのも、指揮者としてオーケストラを率いるお仕事に必要な技術なのでしょうか。 齋藤:そうだと思います。私の場合は最初に「自分の意志とは?」とつまずいたことで、それを乗り越えるために考えることができるようになった。そういう失敗を繰り返して、経験を積んでこられて良かったと思っています。 ――指揮者のお仕事で、やりがいを感じるのはどんなときですか。 齋藤:やりがいはあるけど、そこまで行くまでには結構必死にやっています。 ――どういうところに、しんどさを感じるのでしょう? 齋藤:やっぱり頭を使って、オーケストラのみんなを納得させないといけないので。それはもう大変なんですけれど、そうやっているといつか「ビビッ」とくる瞬間があるんです。奏者と目と目が合っただけで、「この音だよね?」と意思疎通ができて、お互い思った通りの音が出る。うまく言葉にできないですけれど……音と対話ができたという感覚でしょうか。そんなときには「よっしゃ! やった!」と心の中でガッツポーズをしています。
齋藤友香理
東京都出身。桐朋女子高等学校音楽科を経て、桐朋学園大学でピアノコース卒業後、同大学の科目履修生として『指揮』に在籍し、黒岩英臣、高関健、梅田俊明の各氏に師事した。小澤征爾から指揮研修生に選ばれてSKF松本での『ヘンゼルとグレーテル』でデビュー。2013年からドレスデンで学び、欧州ではフランスのリール国立管弦楽団やウィーンのトーンキュンストラー管弦楽団を指揮。バイエルン州立歌劇場パルジファルでキリル・ペトレンコのアシスタントも務めた。これまでに読売日本交響楽団、東京交響楽団、大阪フィルハーモニー交響楽団などを指揮。