不安定化する世界、広がる核 イラン、北朝鮮が開発継続 NPT体制形骸化
ロシアのウクライナ侵攻や中東の紛争拡大で国際情勢が不安定化する中、独裁体制維持や抑止力強化のために核保有を目指す動きが広がっている。 【写真】イランのペゼシュキアン大統領 北朝鮮はロシアとの軍事協力を強め、核・ミサイル開発にまい進。事実上の核保有国であるイスラエルと対立を深めるイランは、核兵器の原料となる高濃縮ウランを蓄えている。米国やロシア、中国も核軍縮に逆行。核不拡散・核軍縮の中心となってきた核拡散防止条約(NPT)体制の形骸化が止まらない。 ◇7回目の核実験も 「核戦力強化の路線を変えることは絶対にない」。北朝鮮の金正恩朝鮮労働党総書記は10月、新型大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射に立ち会い、こう強調した。「責任ある核保有国」を自称する北朝鮮は、米国の政権交代後も核・ミサイル開発で決して譲らないとけん制した形だ。 トランプ米政権1期目の2018年、初の米朝首脳会談が実現し、対話による非核化への期待がにわかに高まった。だが、米朝はその後「朝鮮半島の非核化」を巡り決裂。北朝鮮は、凍結していた核実験やICBMの開発再開を表明し、非核化は遠のいた。 北朝鮮は故金日成主席の時代から核開発に取り組んでいるとされ、03年にNPT脱退を一方的に宣言。06年以降に6回の核実験を行うなど、核開発に着々と取り組んで来た。韓国当局は、北朝鮮が7回目の核実験の準備を既に終えたと分析している。 ◇核武装論を支持 革命体制の存続を目指すイランは、敵対する米国やイスラエルに対抗するため、核開発を外交カードとして利用してきた。核兵器の製造や保有を禁じる最高指導者ハメネイ師のファトワ(宗教令)とは裏腹に、核爆弾4個分に相当する濃縮ウランを保有。国際原子力機関(IAEA)による核施設監視や調査にも、部分的にしか応じていない。 今年7月に就任したペゼシュキアン大統領は「核兵器を追求したことはなく、今後もしない」として、米欧との対話を模索。イランが核開発を抑える見返りに米欧が経済制裁を解除する2015年の核合意の再建に、意欲を示してきた。 ただ、1期目に核合意から一方的に離脱したトランプ次期大統領の出方次第で、イランが態度を硬化させる可能性がある。イスラエルが中東各地で軍事攻勢に出る中、イラン国内では抑止力としての核武装論に支持が広がっている。 ◇拡散に現実味 NPTの運用を確認する再検討会議は、15年と22年の2会合連続で最終文書を採択できなかった。ロシアが核兵器使用をちらつかせ、中国が核戦力を増強する中、「核なき世界」の実現は遠のいている。 韓国政府傘下の統一研究院が実施した世論調査では「北朝鮮が核を放棄しないなら、韓国も核兵器を保有すべきだ」との主張に66%が賛成。核保有を支持する意見が多数派を占める。 また、サウジアラビアの事実上の最高権力者ムハンマド皇太子は、かつて「イランが核兵器を開発すれば、われわれも追随する」と明言していた。イラン核合意再建の道が完全に途絶え、核開発に歯止めが利かなくなれば、中東で核が拡散するリスクも現実味を帯びることになる。