「普通は獲っちゃいけない選手。でも…」スカウトが語った日ハム5位指名・山縣秀の「異質」…偏差値75“全国屈指の進学校”から異例のプロに
あるスカウト「普通は獲っちゃいけない選手」
「直しちゃいけないタイプ……いや、直しても直せないタイプですね。無理に直そうとしても、山縣自身の中にそういうメカニズムがなければ直らないわけですから。野球を始めた時から、ずっとあのスタイルでボールを拾って投げていたんでしょう、きっと。だから、あのサイドスローを含めて、彼の独特のスタイルに惚れて獲るんじゃなきゃ、普通は獲っちゃいけない選手ですね」 山縣遊撃手のサイドスロー。 彼を否定的に語るスカウトの方が、必ず持ち出す「難点」がそこだった。 「サイドスローでもアンダーでも全部アウトにすれば、なんにも問題ないんですよ。でも、指導者には好みとか、その人のスタンダードっていうのがあるでしょ。プロは、そこが難しい。野手はまず上から投げるのが基本で、横とか下っていうのは非常手段。レベル上がるほど、そういう所、こだわりますよね」 実際に彼のフィールディングをご覧になった方なら、「あー」と共感していただけると思うが、山縣遊撃手の動きのメカニズムは「バレリーナ」のそれに通ずる。 舞台上でのバレリーナの動きは「横の回転」が多い。ならば、同じメカニズムで動く山縣遊撃手の腕の振りがサイドになるのは、自然のなりゆきであろう。
批判もあった独自のスタイルを「正解」に…
リーグ戦での山縣遊撃手のプレーを10試合以上見ているが、彼のスローイングに破綻があったのを、私は一度も見ていない。 彼の動きの根本にサイドスローが自然に合致しているから横から投げるんだ。そう考えるのが、自然なのではないか。 なにより、これまで各方面から苦言や貴重なアドバイスをいただいておきながら、結局最後まで平然とサイドスローを通した。三遊間の深い位置からも、一塁走者と接触しそうな併殺プレーでも、サイドから痛烈で正確な一塁送球を繰り返し、認められて支配下ドラフト5位指名となった。であれば、山縣秀のサイドハンドは「正解」だったのだ。 早慶戦を見に行けなかったので、優勝決定戦となった明治大戦をネット裏から見せてもらった。 いつもの「2番ショート」……しかし、今日は同じ土の上を、明治大の「名手・宗山塁」も守る。 リーグ戦最後の試合、勝ったほうが優勝の一戦で、お互い守って意識しないわけがない。 宗山塁の詰まったショートゴロが、山縣秀の前に転がる。山縣秀、まるでみんなに見せているような「白鳥の湖」で、たおやかにさばく。 今度は、山縣秀の打球が三遊間に飛ぶ。横っ飛びに捕らえた宗山塁、この時とばかり、大上段から矢のようなストライクスローで内野安打を許さない。 これをまた、悔しくないはずはないのに、山縣秀、惜しげもなくサッと涼しい顔でベンチへ引きあげるのだから、きっと内心、メチャメチャ意識していたはずだ。 結局この日、ノーヒットに終わった山縣遊撃手。 それでも、一死ランナーなし。長打を狙ってもよい場面では、本当にホームランを狙っているような渾身のフルスイングを何度か見せた。 華麗な守備ワークで多くの目を惹きつけた一方で、打てない、非力だ、小技だけ……などと言われ続けた山縣遊撃手の「打者」としての意地を見た。 最初のボールで送りバントをきめられて、セーフティもできて、追い込まれても進塁打が打てて、右方向へ弾き返してチャンスも作れて……そんな繋ぎ役が高精度にこなせる「仕事きっちり」タイプも、右の大砲と同じくらい、そうそういないだろう。 そんな「出来る後輩」山縣秀に続こうという選手が、母校・早稲田大学高等学院から続々現れてほしいのだが、現実はどうだろう。 子供の数が多かった私たちの頃には、入試倍率7倍から8倍。今も、世間からは「最難関校」などと評され、入学すればしたで、「第二外国語」という強敵が立ちはだかり、卒業イコール早稲田大学入学の代わりに、進級の時に容赦なく現級(落第)がある。 その状況は変わらない上に、聞けば、かつて以上に勉学最優先の空気になっているようだ。 こういうご時世だ。 昔のように、夏予選前の定期試験、解答欄が空白ばかりの答案用紙に、「予選がんばります!」と書いたら、「1安打20点」と朱筆されて返ってくる……そんな「良き時代」ではない。 山縣秀、最後の学院出身のプロ野球選手。私は、そうなっても仕方ないと思っている。
山縣が隠し持つ「一芸」とは…?
稀有な存在といえば、山縣秀遊撃手、隠し持つ「一芸」もある。 ピアノの前に座らせれば、いっぱしのピアニストでもあるそうだ。 フッと思ったことがある。 晴れの入団発表の会場に、なんなら、グランドピアノの1台も用意してもらって、本人、ショパンが弾けるとか言っていたから、名刺代わりに「幻想即興曲」の一節も披露してもらったら、これ以上ないアピールになったりするのではないか。 これまで、いくつものイキで奇抜なサプライズで私たちを驚かせ、楽しませてくれた日本ハム球団だけに、それぐらいのことしてくれたって、誰も文句言ったりしないんじゃないかなぁなどと、妄想したりもしている。
(「マスクの窓から野球を見れば」安倍昌彦 = 文)
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