リモートワークを認めない上司の言い分「対面でないと伝わらない」「アイデアは雑談から生まれる」「信頼関係が築けない」が間違っている理由
リモートで関係を作れない人は会っても同じ
リモートワークでは人と関係を築けないという人もいる。対面でないとコミュニケーションが取れない、対面の会議でないと信頼関係を構築できないという。しかし、対面していない時、離れている時に関係を築けない人は、実際に会ってもコミュニケーションは取れず、よい関係を築けないといっても過言ではない。信頼されない上司は会ったら余計に信頼されないかもしれない。 とにかく、会えば何とかなると思うのは、相手の愛を確信できない恋人のようだ。愛し合っている二人はいつも一緒にいたいと願うだろうが、離れていても寂しくない。関係がこじれてしまった時、電話では埒が明かない、とにかく直接会って話をしようという。しかし、会ったからといって関係が改善するわけではない。 外国語で電話をするのは苦手だという人は、顔が見えないからうまく話せないというが、外国語の力が足りないだけで、実際に会っても話すのは難しい。母語でも話すのは難しく、対面しても相手が理解できるように論理的に話せるわけではない。 私は長くカウンセリングをしてきた。カウンセリングでは、表情、動作、姿勢、声の調子などが、クライエント(来談者)について理解するために有用であることは知っている。しかし、言葉だけではコミュニケーションが取れないというのは本当ではない。言葉だけでカウンセリングができないとすれば、カウンセラーが無能だからである。
オンラインの高い利便性
声を聞くだけではコミュニケーションが難しいというのであれば、オンライン会議アプリを使うことができる。使ったことがない人が想像するのと違って、オンライン会議や、医療で利用されるようになっているリモート診療では、ディスプレイに大きく映る顔を見ることができ、実際の対面よりも表情がよく見える。もっとも、顔が見えれば相手のいっていることがよく理解できるかといえば、必ずしもそうではない。顔が見えることは理解の助けにはなるが、理解のために必須ではない。 診療についていえば、すべてをリモートで行うことはできない。痒さや痛さといった感覚は外からはわからないからである。しかし、その人が感じている痛みは、その人が目の前にいてもわからない。 私の場合、近年講演はすべてオンラインで行ってきた。海外とつないで講演することもある。編集者との打ち合わせもオンラインである。オンラインでの講演であれば、講演者は遠方まで行く必要がなく、講演を聴く側にもメリットがある。 講演が遠方で開催されると、以前は大抵諦めざるをえなかったが、今なら自宅で講演を聴くことができる。海外の講演も聴ける。主催者も会場の手配をする必要がなく、講演者に交通費や宿泊費を支給する必要もない。新型コロナウイルスの感染が収束しても、対面の講演に戻す必要はないと考えている。