リモートワークを認めない上司の言い分「対面でないと伝わらない」「アイデアは雑談から生まれる」「信頼関係が築けない」が間違っている理由
相手を支配するという目的
20分で終わるのであればオンラインでいいのに、京都から東京にくることを公務員に強いる政治家は、仕事そのものでなく、会いにこさせることで自尊心を満足させたいのだろう。 オンラインで仕事ができるのなら、政治家が外遊する必要もない。首脳の会談も対面でする必要はない。突然の会議キャンセルが議長国のメンツを潰すと感じるのも、オンラインでの会議の有用性がまだ認識されていないからである。 学会もコロナ禍で中止になったり、オンラインで開催されたりした。今後もせめて対面だけでなく、オンラインでの聴講がオプションで可能であるのが望ましい。学生にとって遠隔地で開かれる学会に参加するための交通費の負担は大変だった。 対面の強制だけではない。今日、オプションをなくし、つながりが強制されることが多くなってきた。例えば、SNSやLINEは広く利用されているが、これらのツールを利用しない人は、変わり者どころか、コミュニケーション能力に欠けるとの烙印を押されかねない。SNSを利用しない作家はベストセラーを出していても特別だと見なされる。 私はSNSでも時々発信しているが、フォロワーが多くはないので、新刊本に触れた記事をSNSで拡散してほしいといわれると困ってしまう。本を出版したいと思っても、フォロワー数が多いことを条件にする出版社があると聞いたことがある。 このように、つながりを強制することには支配という目的があり、有用性や便利さよりも、管理したいのである。 文/岸見一郎 写真/shutterstock ---------- 岸見一郎(きしみ いちろう) 1956年、京都生まれ。哲学者。京都大学大学院文学研究科博士課程満期退学(西洋哲学史専攻)。専門の哲学に並行してアドラー心理学の研究。奈良女子大学文学部非常勤講師などを歴任。著書に『嫌われる勇気』、『幸せになる勇気』(古賀史健と共著、ダイヤモンド社)、『ゆっくり学ぶ』(集英社)『医師と患者は対等である』(日経BP)、『つながらない覚悟』(PHP研究所)、訳書に『ティマイオス/クリティアス』(プラトン、白澤社)など多数。 ----------