闇バイト強盗「仮装身分捜査」は“導入の必要性高い”が… 解決すべき「3つの法的問題」とは【弁護士解説】
「適正手続」の要請は「捜査を担当する人」にも及ぶ
そして、そのように仮装身分捜査の「入口」と「出口」を法的にコントロールすることは、刑事訴訟法、憲法の精神にかなったものだと説明する。 福原弁護士:「捜査手法について、刑事訴訟法197条は『強制の処分は、この法律に特別の定めのある場合でなければ、これをすることができない』と定めています。そして、強制処分を行う場合はあらかじめ裁判官が発付する『令状』が必要です。 この『強制の処分』の意味について、判例・実務では『個人の意思を制圧し、身体、住居、財産等に制約を加えて強制的に捜査目的を実現する行為など、特別の根拠規定がなければ許容することが相当でない手段』をさすと解されています(最高裁昭和51年(1976年)3月16日判決参照)。 また、『強制の処分』でない場合でも、捜査手法そのものは、人権侵害防止のため、判例上、『必要性、緊急性なども考慮したうえ、具体的状況のもとで相当と認められる限度において許容される』としています(上記判決参照)。 このような判例・実務の法解釈は、憲法で保障されている『適正手続』の観点から、捜査手法等の手続そのものが適正でなければならないとしたものです(憲法31条参照)。 したがって、捜査対象となる被疑者等の人権だけでなく、捜査を担当する警察官や協力する一般人の人権も当然、守らなければならないという理屈になります。その意味からも、制度上、捜査に関わる人の真摯な同意を要求しなければならないと解釈せざるを得ないのです」
違法捜査の口実として利用されるリスクを防ぐには
最後に、「③違法捜査の口実として利用されるリスク」とはどのようなものか。 福原弁護士は、司法官憲が「闇バイト強盗を行う組織への潜入捜査」を口実として、無関係な事業者等の監視や情報収集を行うおそれがあり、それを排除する必要があるとする。 福原弁護士:「仮装身分捜査は、まだ発生していない犯罪の捜査なので、その性質上、本来は『闇バイト』ではない通常のアルバイト募集をしている事業者が対象となる可能性があります。 仮装身分捜査を口実に、『ホワイト』な事業者等の団体の内部に入り込み、監視や情報収集が行われるおそれがないとはいえません。 したがって、法律上、無関係な事業者の情報収集等のために捜査を行ってはならないことに加え、途中で闇バイトと無関係であることが判明した場合にすぐに捜査を中止しなければならないことも、明記しておく必要があるでしょう」 闇バイト強盗は、社会の高齢化と、若者の貧困の問題を背景に広がった犯行手口である。また、犯行の手口が常に進化していることも考えれば、捜査手段もそれに対応する形で進化しなければ、社会を守ることは難しい。 他方で、刑事事件の捜査は、個人の人権を侵害する危険をはらんでいる。守られるべき人権は決して「被疑者・被告人の人権」だけではない。捜査に関わる捜査官や一般人の人権も当然、守られなければならない。また、捜査方法によっては、悪用のおそれや無関係な団体・個人が不利益を被るなどの「副作用」も生じ得ることを忘れてはならない。 そういった観点から、捜査方法について可能な限り、法的なコントロールを及ぼすことは、今までもこれからも、広い意味での人権保障にとって重要な課題だといえる。
弁護士JP編集部