闇バイト強盗「仮装身分捜査」は“導入の必要性高い”が… 解決すべき「3つの法的問題」とは【弁護士解説】
SNSの「闇バイト」で募集に応じた者を実行役として利用した強盗事件が相次いで発生していることを受け、警察庁において捜査員が「架空の人物」になりすまして闇バイトに応募し、犯罪組織に接触する「仮装身分捜査」の導入が検討されている。 【画像】強盗の認知件数の手口別構成比(2023年) いわゆる「闇バイト犯罪」は、その性質上、組織や実態の全容解明が困難であり、「仮装身分捜査」の導入により、犯罪組織の全容の解明を促進するとともに、「闇バイト犯罪」そのものに対する抑止効果も一定程度期待できる。しかし他方で、このような捜査手法は、それに関与する捜査員や協力する一般人の身を危険にさらしかねないことなどが懸念される。 「仮装身分捜査」の法的な問題点と、それに対しどのように法的な「手当て」を行うべきかについて、刑事訴訟法の実務に詳しい福原啓介弁護士(舟渡国際法律事務所)に聞いた。
関連し合う3つの「法的問題点」
仮装身分捜査は、実在しない架空の人物になりすますことで、犯罪組織の内部に肉薄しようとする捜査手法である。 福原弁護士は、このような捜査手法の効用や必要性は認めつつも、考えなければならない法律上の問題の出発点として、仮装身分捜査が「違法に違法を重ねる可能性がある」捜査手法であることを指摘する。 具体的には、以下の3種類の法的な問題点が考えられ、これらが互いに密接に関連し合っているという。 ①国家が犯罪を誘発する側面があり、捜査の公正が害される危険がある ②実際に捜査を担当する警察官や一般人の協力者の人権侵害のリスクがある ③違法捜査の口実として利用されるリスクがある 福原弁護士:「もちろん、犯罪組織側に対して、手の内をさらさないようにするため、たとえば、捜査手法のノウハウ等について法律に定めることは現実的ではありません。 しかし、そうでない範囲の問題については、可能な限り、法的なコントロールを及ぼす必要があります」
捜査の公正が害される危険があることについて
まず、「①国家が犯罪を誘発する側面があり、捜査の公正が害される危険がある」とは、具体的にどのようなことか。 福原弁護士:「現状警察庁において検討されている『仮装身分捜査』では、身分証明書等の偽造・使用等を伴うことがあると明言されています。 身分証明書の偽造を行うことは本来公文書偽造罪・同行使罪(刑法155条1項・158条参照)、私文書偽造罪・同行使罪(159条1項・161条参照)に該当する可能性があります。 もちろん、刑罰法規が定める犯罪の要件に該当するからといって、直ちに違法なわけではありません。この点について、刑法35条が『法令または正当な業務による行為は、罰しない』と定めています。 少なくとも、現在検討されている『仮装身分捜査』という捜査手法に関するルールを定めた『法令』は存在しません。しかし、刑事事件の捜査が『業務』にあたることは明らかです。 ただし、『正当』かどうかは最終的には裁判所・裁判官の判断にゆだねられざるを得ません。事後的な司法判断を待たなくては分からないのでは、捜査機関や担当官も困ることになるでしょう」 仮装身分捜査は一種の「なりすまし捜査」だが、過去に「なりすまし捜査」の違法性を理由として無罪判決が下された例もあるという。 福原弁護士:「窃盗事件で、被告人は窃盗の公訴事実を認めていました。にもかかわらず、裁判所は、『なりすまし捜査』を行うべき必要性はほとんどなく、国家が犯罪を誘発し、捜査の公正を害するもので違法だとして、被告人に無罪を言い渡しました(鹿児島地裁加治木支部平成29年(2017年)3月24日判決)。 『仮装身分捜査』の導入についても、捜査活動の公正が害される危険をはらんでいることが否めない以上、より一層慎重に検討する必要があります」 他の2つの問題点、すなわち『②実際に捜査を担当する警察官や一般人の人権侵害のリスク』『③違法捜査の口実として利用されるリスク』との関係等を考慮の上、どこまでが認められるか、可能な限り、法律、または法律の委任を受けた『規則』等で定めておくことが望ましいでしょう」