【365万人が仕事と介護を両立する時代】もはや誰もが当事者に 介護離職以外の選択肢を増やせ
進む企業の介護支援企業と従業員の歩み寄りを
従業員が介護に関する知識がないまま介護離職につながることは、企業にとって大きな損失となる。従業員の選択肢を広げるため、企業も対策を進めている。 東京海上日動では、2013年より仕事と介護の両立支援に本格的に取り組み始め、その後、介護を専門とするグループ会社・東京海上日動ベターライフサービスとも共同して支援を広げてきた。現在では年1回、約600人の従業員が参加する介護セミナーで基本となる両立支援制度などを周知するほか、介護についての個別相談会も実施している。 同社人事企画部・企画組織グループの三好里咲さんは「昨年度は個別相談会の枠が不足したことから、年間55枠から年間60枠まで増やした。セミナー後や実家に帰省する際に介護への関心を抱いて個別相談会を予約する従業員が多く、そのニーズが高いことがわかる。また、オンライン上では『介護雑談部屋』を開設し、「介護に関する情報収集や理解促進」を目的に、介護の悩みや愚痴などを雑談する東京海上グループ限定のコミュニティーを設けている。介護専門職のプロから具体的なアドバイスももらえるため好評だ」と話す。 大企業のオフィスワーク部門に限った話ではない。映像編集の「現場」を持つ白川プロ(東京都渋谷区)では、代表取締役社長の白川亜弥さんが介護離職のニュースを見たことをきっかけに、15年から仕事と介護の両立支援とその周知強化を進める。
白川さんは「まずは私たち経営者側が『介護の両立支援を充実させます』と宣言して、従業員の中に『介護の相談をしてもいい』という空気を醸成していった」と話す。 同社も東京海上日動と同様に、年1回の介護セミナーを開催して両立支援制度の周知を図っている。また、介護保険制度の対象となる40歳を迎えた従業員には、両立支援制度などについて書かれた手作りのパンフレットを配布する。同社人事部副部長で介護相談窓口を担当する風張有紀恵さんは、「どのような相談でも、キャリアに影響がないことは必ず伝えている。まずは従業員の悩みを知ることが大切だ」と語る。 現場の仕事を抱える映像編集の世界では、深夜残業や不規則なシフトなど、介護との両立は難しいのではないかと懸念を持つ読者がいるかもしれない。白川さんは「映像編集は専門職で、全員がスキルを持っているため、休暇を取る従業員の仕事の穴をカバーしやすい。両立支援制度の周知や相談しやすい環境整備を行うことも大切だが、実務的には〝その人だけ〟しかできないような仕事を減らしていくことが重要になってくるのではないか」と話した。