70歳過ぎても働ける企業、半数近くに 人手不足でシニアは貴重な戦力
79歳の電気保安員 フットワーク軽く
70歳を過ぎた人が働く職場が広がってきた。中国地方では、70歳以上でも働ける制度を設けている企業が半数近くに上る。少子高齢化と人手不足の時代に、シニアは貴重な人材だ。熟練の技術や豊富な経験を生かして活躍する姿を追った。 【一覧】70歳を過ぎても働ける企業の割合 「働くのも、遊ぶのも忙しい」。電気保安業のイーテック24(広島市西区)の社員、寺島正文さん(79)=安佐北区=は週5日、フレックスタイムで働く。学校や官公庁で高圧電気の受変電設備を保守、点検するのが仕事。休日は、音楽鑑賞や友人との集いを楽しむ。 市内の工業高を卒業後、スーパーや計測機器メーカー、自治体に勤め、設備の開発や電気保安の業務を担った。長年の経験や若い頃に取った第三種電気主任技術者の資格を生かそうと、69歳で入社。雰囲気の良さと、自分の裁量で仕事ができる環境が気に入った。 同社の定年は70歳だが、本人の希望で雇用を延長する。従業員80人のうち70歳以上は21人。若年層が少なくなる中、岡永昭雄社長は「直行直帰が基本で、休みは自由に取れる。融通が利くので長く働いてもらえる」と話す。 「電気は水と一緒で、届いて当たり前。届かなくなると人はパニックになる」と寺島さん。2018年の西日本豪雨では、避難所のエアコンの電源確保や、浸水した電気設備の保守に走り回った。「感謝されるとうれしい。役に立っていると思うから続けられる」 今も得意先に仕事を頼まれると、遠方でも急いで駆けつける。岡永社長は「フットワークが軽く、若い人以上の仕事をこなす」と評価する。 来年3月で80歳。妻や娘たちからは「そろそろやめたら」と言われる。「働き詰めで今日までやってきた。ゆっくりしてみたい」と考えることもあるが、会社の信頼は厚い。引退はまだ先になりそうだ。
80歳パート、前菜盛り付け シフト管理も 開店時から唯一の従業員
開業25年を迎えた広島市南区の日本料理店「豆匠(とうしょう)」。調理補助のパート柳井律子さん(80)はオープン当初から働く。店の歴史を全て知る唯一のスタッフだ。「まさか、この年まで続けるとは思わなかった」と笑みを浮かべる。 家から近く、偶然選んだ職場。主に前菜の盛り付けを担い、野菜の下ごしらえや洗い物も引き受ける。「前菜は最初に提供する一皿。盛り付けでおいしさが決まると思うから、きれいにしておきたい」。箸使いに心を込める。 同僚は子や孫と同世代。2年前に体調を崩し、膝も痛む。「みんなと同じようにはできん」と思う。それでも、宗実光秀料理長(49)から「おってもらわんと困る」と言われると「まだやめちゃいけんね」と意欲が湧く。仲間の勤務シフトを管理し、料理長に伝える調整役でもある。 店を運営する東洋観光(中区)はパートやアルバイトの年齢制限がない。70歳以上は36人。シニア層は言葉の使い方や所作が丁寧で、若い従業員のお手本になるという。豆匠では従業員22人のうち5人が70歳以上だ。 柳井さんの楽しみは休日に出かけるランチ。お気に入りの店で、接客の良い店員と話すのが「癒やし」になる。食器の清潔さや料理の見栄えをチェックし、仕事に生かす。「煮炊きはできないけれど、自分にできることはする」。達者な姿も向上心も職場のお手本だ。