ゴーストタウンから若者の聖地へ…大阪「味園ユニバース」が“ナンバの魔窟”となったワケ。映画のロケ地としての歴史も解説
コロナ後、インバウンド客が戻ったが…。
2023年後半ごろにはコロナ禍を乗り越え、閑散としていた難波、千日前は、日本語以外の言葉の方が多く聞こえるほど、インバウンド客が多く訪れるようになっていた。 2階のなにか時空が歪んだような不思議なビル、別世界に迷い込んだような味園という場所は、海外の人にとっても、日常を忘れる時間を過ごせたことだろう。小さな扉を開ければ、それぞれオーナーの趣味や美学が狭い空間にぎっしり詰め込まれ、まったく別の世界が広がっていた。 緩やかにスローブがかかった通路を歩き、壁の落書きや、ちょっぴり猥雑なポストカードや個性的なアーティストのポスターを見るだけでもじゅうぶん楽しめた。時代が変わり、客層が変わっても、やっぱりそこは「ユニバース(=宇宙)」だったのだ。 しかし、老朽化は待ったなし。2024年5月、ついに2階のテナントに、契約終了の通知がなされた。 「味園ビル、営業終了」のニュースは、とても寂しかったが、けっして「突然」ではなく、ぎりぎりまで頑張り尽くした、という清々しさがあった。 築68年。建築を独学で学んだ志井氏が作った夢のビルは、あまりにも独特で、メンテナンスが難しいことも大きかっただろう。2025年5月、ビルの解体が決定している。 2Fのスナック街は年末でクローズ。地下1階の「ユニバース」は取り壊し直前まで、盛大にラストを飾るライブやイベントなどが行われる予定だ。 難波の夜、ふらり誘われた、あの赤と青のネオンは、一足早く灯りを消した。一つの終わりは一つの始まり。「難波の魔窟」と呼ばれたあの場所に、どんな空間が新たに広がるのか――。とても楽しみだが、しばらくはまだ、うっかりこう言ってしまいそうだ。 「せやな、じゃあ味園でも行こか」。 【著者プロフィール:田中稲】 ライター。アイドル、昭和歌謡、JPOP、ドラマ、世代研究を中心に執筆。著書に『そろそろ日本の全世代についてまとめておこうか。』(青月社)『昭和歌謡出る単 1008語』(誠文堂新光社)がある。CREA WEBにて「田中稲の勝手に再ブーム」を連載中。「文春オンライン」「8760bypostseven」「東洋経済オンライン」ほかネットメディアへの寄稿多数。
田中稲