妊婦の不安を取り除く ~感染時期がポイントに―トキソプラズマ感染症~
◇食文化の違いで発症率に差
トキソプラズマ症を引き起こす原因の一つが、原虫が潜んでいる可能性がある生の肉や十分に加熱していない肉を食べることだ。 トキソプラズマ症の発症率は、国や地域によって差がある。そこには、生肉を好んで食べるかどうかという食文化が関係している。 フランスでは妊婦のトキソプラズマ抗体保有率が高く、03年における保有率は44%だ。このため、抗体スクリーニングや抗体陰性ものに対する月1回の検査などの感染予防プログラムが実施されている。一方、米国や英国ではトキソプラズマ抗体保有率が低いとされている。 日本でも馬刺しや鳥刺しを好んで食す地域は感染のリスクが高いとされる。このところ、人気が高まっているジビエについても、同じことが言えるだろう。患者会などは、妊娠したら生肉を避け、肉は十分に加熱して食べることを勧めている。ステーキもレアは避けた方が良いだろう。
◇猫は飼ってもよいが
トキソプラズマ原虫は猫のふんにも潜んでいる。 猫については、昔と違ってノラ猫は少なくなったといわれる。公園などの砂場も今は管理がしっかりしており、砂場の土に入った猫の糞からのトキソプラズマ感染は減少している。猫を飼うのに問題はない。ただ、念のために、猫をキッチンや食卓に近付けないようにし、猫のトイレの砂は妊婦以外の者が毎日交換した方が良いだろう。
◇厚労省、診断用医薬品を承認
トキソプラズマの抗原と抗体の関係を鍵と鍵穴の関係に例える。出来たての鍵が鍵穴にはまることは少ない。IgGアビディティー検査で60%程度の抗体があることが判明すれば、感染時期は妊娠の4カ月以上前ということになる。 「出産までずっと抗菌薬を服用しなければならないのだろうか。赤ちゃんは定期的に検査をしなければならないのだろうか」 森岡教授はこんな疑問を抱いてきたという。不安を抱えた母親にとり大きな負担となるからだ。 アボットジャパン合同会社は日本大学、東京大、福島県立医科大学などとの共同研究に基づき、IgGアビディティーを検査する体外診断用医薬品を開発。24年10月、厚生労働省から製造・販売の承認を得た。日本医療研究開発機構(AMED)の成育疾患克服等総合研究事業の支援も受けている。 森岡教授は「妊婦に『安心を届ける』ことが私たちの使命だ」と力説する。(鈴木豊)