「プロレスは仕事ではなくライフワーク」…四十代で和田拓也に訪れた出逢いと導き人【週刊プロレス】
勝村周一朗との最高峰を懸けた一騎打ち「ガンプロは自分の想像以上のことが起こる」
2013年にDDTの別ブランドとして旗揚げし、市ヶ谷・南海記念診療所で73人の観客とともに「プロレスをメジャースポーツにする」ことを掲げ、近年では大田区区総合体育館にまで進出するなど躍進を続けてきたガンバレ☆プロレスが、CyberFightからの独立を1月31日に発表。3月17日には後楽園ホールで代表の大家健が高木三四郎と区切りの一騎打ちをおこない、恩人とも言える大社長より卒業証書が贈られた。 【写真】和田のパートナー・勝村周一朗 4月以後はCyberFightグループの後ろ盾に頼らず、団体を継続させていくことになる。翔太をはじめ何人かが新しい道を模索するべく退団という選択をしたが、ほとんどは所属選手として残り、後楽園でも大家のセコンドについて集結、力の強さを見せつけた。 Cyber体制の大会は3・20高島平区民館と、3・28上野恩賜公園と残すところ2つ。中でも目前に迫った20日は独立前最後のタイトルマッチ、スピリット・オブ・ガンバレ世界タッグ選手権試合がおこなわれる。 第2代王者組の勝村周一朗&和田拓也は、昨年7・9大田区ビッグマッチで佐藤光留&前口太尊から奪取したあと4度の防衛に成功。 元修斗バンタム級王者とウェルター級キング・オブ・パンクラシストのコンビとあれば強くて当然なのだが、そういった視点でこのチームを見るガンプロファンは、今となってはあまりいないと思われる。 それほど二人は、ガンプロに溶け込んでいる。格闘技の技術による刃物の切っ先のような緊張感と、プロレスのリングだから表現できる開放的なスタイルを併せ持つのが魅力となり、ファンに刺さるのだ。 勝村は団体最高峰のシングル王座、スピリット・オブ・ガンバレ世界無差別級との2冠王であり、3・9横浜ラジアントホールではタッグ王者同士によるタイトル戦を実現させ、盟友をニンジャチョークで仕とめた。両者はアマチュアリングス時代から30年近くの付き合いがあり、総合格闘技でも切磋琢磨してきた。 先にプロレスのリングへ上がり、ガンプロへ和田をいざなったのも勝村。過去にシングルマッチで対戦はあったものの、やはりベルトを懸けて1対1で渡り合ったのは特別の感慨があっただろう。 「まず、ガンプロへ上がるようになって1年でここまで来るとは自分自身、思っていなかったんで、驚いているのが正直なところです。ましてや勝村さんとメインでタイトルを懸けてやるなんて想像もしていなかったですから。 本当に、ここのリングは自分の想像以上のことが起こる。今はタッグのベルトを持っているのもあって、主要なところでやらせてもらっていますけど、それも信じられないぐらいです」 まずは勝村戦を振り返るところから始めようと話を振ったところ、いささか意外な答えが返ってくる。和田拓也ほどの実力を備えた男であれば、自信満々にプロレスへ足を踏み入れたと思っていた。 実際は、今でも「1年前の想像以上の手応えこそありますが、毎回が反省ばかりです」が現状らしい。そこには謙遜も含まれると思われるが、和田の言葉からは格闘技における強さが必ずしもプロレスにおけるそれと合致しない難しさが、にじみ出ている。 「強さに関しての自信はありますけど、今のようにレギュラーで出られるというのは想像していませんでした。僕も、もう46歳なんで時間的にどこまでやれるかというのもある中、若手選手と同じように一試合ずつ考えてやっていかなければ向上していけないと思うんです」 純然たる若手であれば、先輩たちがなんの気兼ねもなくアドバイスしてくれる。それを糧に自分で考えてよい方向に進めばいい。和田の場合、格闘技の世界で輝かしい実績を残し、現在もアスリートとしての強さをまとっている。 たとえ気づいても「和田さんほどの人にアドバイスするなんて…」と周囲はなるだろう。そこは自身も感じるようで「前だったら佐藤光留さん、今は勝村さんにアドバイをもらえますけど、それ以外となるとなかなか…。怒られたりすることがないのは逆にまずいって、自分でも思うんですけど」と少しだけ視線を落とす。 むしろどんどん言ってほしい、なんなら怒られてもいいと思うのだが、確かにいくら代表だといっても大家が和田に(二人は同級生)アドバイスするシチュエーションは考えにくい(その代わり、ゲキはいくらでも飛ばすはず)。そうなると、自主的な研究が主となる。 そうやって1年以上、プロレスと向き合ってきた。日常の中へある格闘技と比べると練習は時間的に、それほどできる状況にない。心掛けているのは、映像によるイメージトレーニング。 ほかの選手の動きを穴が開くほど見て、自分も実戦でやってみる。WRESTLE UNIVERSEでプロレスリング・ノアの試合をよく見るそうだが、見る側からやる側になっての気づきが多いのはエディ・ゲレロやディーン・マレンコのレスリングだという。 「WWEの試合ってあまり見なかったんですけど、このトシでやることの面白さがわかった上で見たら、よさが理解できるようになった。こんなすごいプロレスを彼らは僕らが中高生の頃にやっていたんだって、改めて思いましたね」 職人気質のプレイヤーに魅了されるのは、自分もカテゴライズすると“そっち側”だと思うから。共通項である格闘技の技術とともに、そうやって研究を重ねてきたものを勝村にぶつけていったのが、3月9日のタイトル戦だった。 気がつけば、どっぷりとガンプロへ浸かる自分がいる。中学の頃、一度はあこがれた世界だが、やはり見るとやるとではまったく違った。 「ある意味、格闘技の方が楽だなってプロレスをやったことで思いましたね。僕の場合、始めたのが遅かったのもありますけど、技の斬れ、美しく見せる動きというのが難しい。格闘技は上を獲って殴れば勝てる、それ自体はすごくシンプルで簡単。もちろん成功させる上での技術は必要ですけど、その技術を備えたら最短で決められる。 あとは、そういった格闘技に関することを長くやってきて、当たり前になったものとは違う作業をやる難しさも感じます。でもだからこそモチベーションになっている。全然ヘタだしきれいじゃないけど、それも含めて面白いと思えるんです」 人生の折り返し地点をすぎた四十代というタイミングで、これほど自分を注ぎ込める対象に出逢えたのは喜ばしい。もしも二十代の時点でこの世界に足を踏み入れていたら、また違った位置づけになったはずだ。