凱旋門賞が行われたパリロンシャン競馬場では、その前日の土曜にも2つのG1競走が行われました。 　そのひとつが長距離得意の牝馬が競ったロワイヤリュー賞（芝2800メートル）で、これを制したのはC・スミヨン騎手を鞍上に14頭立ての10番人気で出走したA・オブライエン厩舎の3歳馬グレートフル（父ガリレオ）でした。 　レースは直線入り口で10頭以上が横一戦に広がる混戦、後方を進んで馬群の外に取りついたグレートフルでしたが、残り300メートルになっても進路を確保できず。絶望的とも見えた瞬間、スミヨン騎手が大外に持ち出すと、なにかが取りついたような末脚を爆発させて2着に3／4馬身をつける逆転勝ちを飾りました。 　驚異の差し切り勝ちを伝えた実況放送はそのあと、勝ち馬が15年のBCマイルなど米、英で6つのG1を制して15年と16年のエクリプス賞最優秀芝牝馬に輝いた名牝テピンの娘であることを伝えました。 　レースが終わって囲み取材に応じたA・オブライエン調教師は、ここで報道陣が知らない意外な事実を口にします。 　「残念なことに母のテピンは昨年、12歳で死んでしまいました。グレートフルはかけがえのない存在で、女王のような馬です」 　そして、偉大な母の血をつなぐため早すぎる引退となることが報告されました。 　テピンは初子として誕生することになるカーリンの牝馬を受胎後、17年秋に行われた米国の繁殖牝馬セールで、クールモアに800万ドル（当時の交換レートで約9億1200万円）で譲渡され、アイルランドで4頭の産駒をのこしましたが、勝ち馬はグレートフル（7戦3勝）と8月に初勝利を挙げ、9月のG2で2着したドラクロワ（牡2、父ドバウィ）の2頭だけ。母として血をつなぐ役目はグレートフルに委ねられています。 　これまで見ることのなかった強烈な末脚は、娘に未来を託した天国の母からのメッセージだったのかもしれません。 　【ターフライター・奥野庸介】（ニッカンスポーツ・コム／極ウマコラム「ワールドホースレーシング」）