レバノンの世界遺産バールベックのそばでイスラエル軍が空爆。文化大臣がユネスコに保護を要請
イスラエル軍は、イランの支援を受けるレバノンのイスラム教シーア派組織、ヒズボラへの攻勢を強めており、連日大規模なミサイル攻撃を続けている。レバノン政府は、この空爆による死者が2000人を超えたと発表。同時に貴重な文化遺産も危機的状況に陥っていることが明らかになった。 レバノンのモハメド・モルタダ文化大臣は、イスラエル軍による空爆がレバノン北部にある世界遺産で、中東三大遺跡の1つに数えられているバールベックからわずか500メートルしか離れていない場所で行われたことを受けて、国際的な対応を呼びかけた。モルタダは、ロンドンを拠点とする中東メディアNew Arabに対し、遺跡はまだ無事であることを確認したが、空爆が続いているために予断のならない状況であることを強調した。 世界遺産の遺跡バールベックは、1万1000年前にレバノン周辺を基盤として発展したフェニキア人の聖域だったと考えられている。現在残っている建物の多くはローマ時代のもので、3つの神殿が代表的だ。中でも保存状態の良いバッカス神殿は高さ28メートル、幅34メートルと、アテネのパルテノン神殿を超える大きさを誇る。また、高さ20メートルの6本の柱が残るジュピター神殿もシンボル的存在。遺跡は1984年に世界遺産に登録されたが、ユネスコはその推薦理由を「それら巨大な建造物群は、絶頂期のローマ帝国の建築の最も優れた例の一つである」と記している。そのほかレバノンには合計6つの世界遺産があり、世界最古の都市の1つであるタイールや、レバノンで唯一残るウマイヤ朝時代の遺跡アンジャルなどが含まれている。
10月6日、人権擁護を目的とする非営利芸術団体「スロー・ファクトリー」の創設者セリーヌ・セーマンは、バールベックのジュピター神殿の柱の後ろからイスラエル軍の空爆による大きな煙が立ち上がる画像を、「自身の声や存在をあらゆる場所で消し去りながら、私たちはなぜ我々の遺産を炎上させることを許しているのでしょうか?」というコメントとともにinstagramに投稿した。その投稿にはすぐに、「言葉が出ない」「ヒズボラは、遺跡に武器を隠してなどいない」「ユネスコはどこにいるの?」といった非難のコメントが相次いだ。 イスラエル軍によるレバノンへの空爆が9月23日以降激化して以来、100万人以上のレバノン人が避難を余儀なくされている。特に、イスラエルと国境を接する南部の町や村、およびベイルート南部の郊外は激しい攻撃を受けている。 レバノンへの軍事侵攻は、10月7日に1年が経過したハマスとイスラエルの衝突の拡大という側面もある。これまでガザ地区ではイスラエル軍の攻撃によって4万1000人以上が死亡し、パレスチナの数多くの文化財も破損したり、完全に破壊されたりした。例えば世界で3番目に古い教会とされるガザ地区の聖ポルフィリウス教会は、イスラエル軍からミサイルを2度撃ち込まれた。2024年5月には、国連開発計画がこれまでに341のモスクが破壊されたと考えられると報告している。 アートセンターも被害を受けている。2万点以上の作品を収蔵する現代美術センター、シャバビークは、イスラエル軍による2週間にわたる近隣の病院施設への包囲攻撃に巻き込まれた。具体的な状況は把握されていないが、Hyperallergicによると、この攻撃により「平地に見えるほど建物が破壊し尽くされた」という。ガザ地区での破壊行為を見ると、レバノンも同様の運命をたどるのではないかと人々は懸念している。 レバノンのモルタダ文化大臣は、「私たちは国連に、『イスラエル軍の民間人に対する侵害を止められないのであれば、せめて私たちの遺跡を保護してください』と伝えました」と語った。