「認知症」と「脳」のプロが、いま「早口ことば」に注目する”意外なワケ”…!
「早口ことば」のレッスン
ある年代になったらコミュニケーションと言語機能を磨くことが重要だという。とはいえ50代にかかると、滑舌が思ったように働かなくなるという人も……。プレゼンで噛んでしまった、聞き返されることが多くなった、自分でもなんだかもそもそ話している自覚がある、という人は少なくないだろう。 その「なんだかもそもそ」を解決してきたのが、早口ことばを含めたことばのレッスンを延べ5000人に行ってきた演技トレーナー佐藤正文氏だ。本業はプロの俳優の先生ではあるが、アマチュアの朗読や演技指導にも力を入れている。続いて、そんな佐藤氏に聞いた。 佐藤 正文プロフィール 演技トレーナー、演出家、俳優。1970年桐朋学園大学演劇専攻科卒業。劇団 俳優座、安部公房スタジオを経て日本大学芸術学部非常勤講師、尚美学園 大学客員教授。芸能プロダクションavex、スターダスト・プロモーションなどでも 演技レッスンを担当し、多数の俳優を育成する。アマチュア劇団や朗読サー クルを指導し、高齢者を含め延べ約5000人の受講者にトレーニングツールの 一つとして「早口ことば」を指導。マンツーマン、少人数での指導を基本とし、 正しい発語に導くきめ細かい指導は定評がある。 >>早口ことばは子どもの遊びのようにも思えますが、発語力の手助けになりますか。 佐藤確実になります。話すということは「情報や感情という荷物を船に乗せて相手に届けること」というのが私のイメージです。高齢になっても蓄積された経験や、熱い思いは変わらないのですが、それらを乗せて相手に届けるための船が古くなって、荷物が、つまり情報や気持ちが「まだら」に届く、というのがシニアの発語事情でしょう。発語している本人はちゃんと伝わっていると思っているのに、何かが欠けた状態で届いているということはままあります。コミュニケーション不全は気づかないうちに始まっているのです。その、壊れ始めた船を修理したり、立て直したりする方法の一つが早口ことばです。 韻をふんだり内容が不条理だったり、早口ことばはとっかかりがスムーズ(とっかかりに興味を持たせることがミソ)です。子どもが遊ぶように面白い早口ことばを楽しくできると、なお良いと思います。 >>効果はすぐに出るのでしょうか。長続きしますか。 佐藤私はたいてい生徒さん各々にあった宿題を出します。宿題をちゃんとやってきた人は目に見えて上達します。例えば、早口ことばの宿題を出された人は、毎日3~5分、時間を割けば良いわけで、次のレッスンで発表すると、やってきたかサボったかはすぐにわかるんですよ。私だけでなく、クラスの皆にわかります。 また、一度獲得したら生涯忘れない。自転車に乗る技術と違って、滑舌のよさは休むとスルリとこぼれ落ちます。 例えばシニアの参加者ご自身の病気やご家族の介護などで数ヶ月、あるいは数年休まざるを得なくなることがあります。休み明けは、滑舌が悪くなっているのは当然ですが、本人曰く「全てに自信がなくなった」「周囲が怖くなった」、と言うのです。レッスンを開始し、またコツコツと宿題をやっていくと以前のように発語の滑らかさを取り戻し、自信が出て人として輝いてくるのがわかります。