よい姿勢は慢性痛やうつを改善、集中力や自信も向上、全身と心の健康に大きな差がつく
姿勢と体の健康
正しい姿勢を保つことは、体にさまざまなメリットをもたらすことがわかっている。たとえば、運動時のけがが減る、筋肉や骨や関節の緊張が和らぐ、スポーツ障害の軽減、バランスの改善、活力の増加などだ。 「よい姿勢をとれば、全身の筋肉にかかる負担が減ります」とムマネニ氏は言う。筋骨格系が健全で正しい位置にあれば、循環系の問題や、神経の圧迫、信号伝達の乱れ、ホルモン障害、手根管症候群やテニス肘といった反復運動による症状などの神経系の問題も起きにくくなる。 筋骨格系が整えば、椎間板ヘルニアや、神経の圧迫による腰、腕、足、首の痛みのリスクも低下する。 「研究から、体が自然な位置からずれていると、椎間板にかかる不均等な力が強くなることがわかっています。椎間板は繊維質とゲル状の組織からなる構造で、脊椎のクッションになりますが、これが圧迫されると腰の痛みにつながります」とマーティン氏は話す。 逆のことも当てはまる。米ニューヨーク大学の理学療法臨床学准教授であるケビン・ウィーバー氏によると、肩や腰の痛みは、姿勢の改善と「よい姿勢からもたらされる筋力」によって軽減できることが研究でわかっている。「よい姿勢を保つことで、体が効率的、効果的に動けるようになるのです」 これは、年をとっても、転んだり手術が必要になったりする可能性が減るということでもある。「姿勢がよい人は、年をとっても、股関節や膝関節を人工関節に置き換える必要がないことが多いのです」とムマネニ氏は言う。 デオン氏も、痔や緊張性頭痛、筋肉の痛みといった血行不良に関連する症状が出る可能性が低くなると述べる。 正しい姿勢は、呼吸の改善にもつながる。シュワルツ氏は、非効率な呼吸パターンは猫背と関連している部分もあると言う。姿勢が悪いと、胸郭上部での呼吸(胸式呼吸)を強いられることになるからだ。それよりも横隔膜呼吸(腹式呼吸)のほうが効率的で、体がリラックスすることにもつながる。 デオン氏によると、正しい姿勢は消化の改善にも役立ち、胸やけ、便秘、高血糖といった問題を回避できる可能性もある。 これが重要なのは、悪い姿勢による健康状態の悪化は、表に出てくるまでに何年もかかる場合があるからだ。 「残念ながら、医学的な症状が現れたときに、はじめて姿勢の悪さに気づく人がほとんどです」と、カナダのトロントにあるヨーク大学で運動と健康について研究しているビエッタ・ウィルソン氏は話す。