哲学的対話、他流試合…考える仕掛けが成長の原動力 偶然ではない東大20人合格 教育の力 洗足学園(中)
9月、洗足学園中学高等学校の総合探究の授業で卒業生の女性が同校に入学して約半年の1年生を前に講演した。卒業生らが就業体験を在校生に伝えるキャリアプログラムだった。 【表でみる】洗足学園焼酎高等学校の合格状況 数年前に卒業した女性は、教育者になることを夢見ていた。進学先の大学もそれを基準に選んだ。そして関東の大学在学中、「日本の狭い教育事情を知るだけではダメだ。世界を知りたい」と、さまざまな国に行き、ボランティア活動を通して見聞きしたという。 その時、強く感じたのは、明日を生きることすらままならない子供たちが世界にたくさんいるということだった。「ここにこそ自分の人生をかけたい。教育の前に、必要なことがある。それは健康を守ること」。女性は大学在学中に文系の学部から医師を目指し医学部へと転籍。現在、小児科医を務めている。 ■進学は人生の中期目標 同校は近年、大学受験で東京大に20人前後、国公立大に80人超の合格者を出し、海外大への入学者もいる進学校に成長した。だが、そうした実績では測れない同校の魅力は、小児科医になった女性のような「生き方」にあると、中高の玉木大輔オフィスマネージャーは言う。 玉木氏は「学校の目標は、子供たちが自分の人生を自分でデザインできるようになること。進学はホップステップジャンプのステップで、人生の中期目標に過ぎません」と強調した上で、こう指摘した。 「職業も人生の一つで、人生そのものではない。わたしたちは6年間の学校生活で、生徒各自が知らない、想像のつかない世界をみせる。結果、それが大学進学、職業選択につながる。そうした学びの場を作っている」 講演で、女性も「中学高校での幅広い学びがベースにあったからこそ」と語ったという。 ■結論より思考重視 幅広い学びのために、同校ではさまざまな仕掛けをしている。 平成30年から導入した「哲学的な対話」もその一つ。平等や平和、恋愛…。そうした答えの出ないことをテーマに対話の手法を用いて、各自の考えを深めていくプログラムだ。これを中学一年からほぼ一カ月に一度のペースで、6年間続ける。対話は①相手の意見を否定しない②自分の考えにも常に疑問を持つ-が条件。結論を出すのではなく、考え続けることに重きを置く。これによって生徒の視野を広げることにもつながるという。 もう一つは、学外活動の挑戦である「他流試合」の励行だ。国内外を問わないコンテストに参加する。例えば、令和元年開催の政策金融公庫による高校ビジネスグランプリで、同校の生徒らは準グランプリを獲得した。受賞したのは、環境に優しいレジ袋「エネルフィッシュ」で、魚の嫌う苦み成分を配合した生分解性プラスチックで、魚の誤飲を防ぐレジ袋をつくるというものだ。