【解説】「コメが足りない」の正体と今後の価格 関係各所からの声で見えてきた「品薄の構図」
■見えた構図 品薄の連鎖
こうした状況の中、5月の連休明けの頃から一部の小売り業者の間で「低価格のコメを中心に、手に入りづらい状況になっている」という声が聞かれ始めました。 そこで取材を進めると「今まで仕入れていたコメが手に入らない」という小売り業者の状況が見えてきました。 直接契約している農家を中心に、全国からコメを取り寄せて販売している小売店によりますと、8月上旬の段階では、「生産者と直接つながっていて、年単位など長期で契約を結んでいる小売り業者では、困っているところはほぼない。困っているのは、その時々で安いコメを仕入れた方が得だということで、スポット的にコメを仕入れているところだ」と語りました。 実際、ある大手卸業者にも話を聞くと、去年のコメの不作によって安いコメの在庫自体が少なくなっていたことがこうした状況を招いたのだと指摘しました。 見えてきたのはこのような構図です。 ①安いコメをスポット的に仕入れ、ディスカウントストアなどに卸していた業者がコメを入手できなくなった。 ②そうしたディスカウントストアなどで、いつも通りにコメを買えなくなった消費者が他のスーパーなどでコメを購入。 ③スーパーなどでの需要が急増し、品薄に。 つまり、まず低価格のコメが品薄となった結果、一部の卸業者や消費者が他のコメを求め始め、"品薄の連鎖"が起きたのではないか、という見方です。 そして、もう一つ、品薄を招いた要因と見られるのが「タイミングの悪さ」です。コメの品薄が広がり始めたころに、南海トラフ地震臨時情報が発表され、地震や台風に備えて「買いだめ」する消費者の動きが加速。さらにお盆で物流も滞るなど悪条件が重なったことで、品薄に拍車がかかり、一部のスーパーのコメ売り場で商品が並ばないほどの事態になったと考えられます。
■品薄の声に農水省はどう応えたか
お盆明けから2週間以上たっても、品薄感が解消しない事態を受け、農水省は8月27日、卸売業者や小売り業者などに対し流通の円滑化に努めるよう文書で要請しました。 「(すでに)口頭でお願いしているが、国民を安心させる発信ということで文書にした」(農水省)といいます。さらに30日には子ども食堂などに備蓄米を提供する窓口を増設するなどの対応を発表しました。(※「備蓄米」・米の生産量の減少によって供給不足となる事態に備え、必要な数量の米を政府が在庫として保有しているもの) 坂本農林水産相は、卸や小売業者らにコメの流通の円滑化を要請したタイミングについて、「遅きに失したというふうには思っていない」と述べています。また、農水省は、もうすぐ新米が出回り始め、品薄も解消すると見ています。 しかし、もっと前に打てる対策はなかったのでしょうか? 農水省の担当者からは、「スーパーへの納品は行われているが、それがすぐなくなるほど消費者がいつにないペースでたくさん買っている。『需要の先取り』が起き、この波がどうくるか、読み切れなかった」、「情報発信の面は、国民を安心させるためにも、もう少しきめ細やかにできたところがあるのかなと思う」と対応不足を認める声も聞かれました。 一方で、品薄緩和のために備蓄米放出を求める声があがっていたことについては「店頭での品薄は短期的な現象で、1年で見るとコメの在庫量は足りている。そうした中で備蓄米を放出すると、お米があまる状況を作ってしまう。コメの価格低下を招いて農業生産者が困ることになる」と説明。備蓄米放出には乗り出せない事情を明かしていました。