なぜW杯でアジア勢はひとつも勝てなかったのか
代表チームとクラブチームの違いこそあるものの、痺れるような戦いの連続が選手の経験値を上げ、成長を促した象徴として、水沼氏は日本代表のDF内田篤人(シャルケ)をあげる。 「数多くの日本人選手がヨーロッパでプレーしているけれども、その中で一番シビアなチームに身を置いてギリギリの戦いを経験してきたのが内田となる。毎年のようにチャンピオンズリーグを戦い、準決勝にまで進出したシーズンもある。ブンデスリーガにおいても宿敵ボルシア・ドルトムントとの『ルールダービー』で勝利を義務づけられ、バイエルン・ミュンヘンの脅威と対峙しながら常に上位に入り、翌シーズンのチャンピオンズリーグ出場権を確保するのは至難の業と言っていい。今大会の日本代表で攻守両面において誰よりも目立ち、戦えたことと、シャルケでの日々は決して無関係ではないと思う。内田は一方で『子どもたちは上手くなってきているけれども、その中から決められる選手が出てきて欲しい』とも言っていた。日本だけでなくアジア全体を見渡しても、今大会はここ一番でゴールを決められる絶対的な選手が不在だったのは事実。つまりは、育成段階にまで話が及んでいく問題だと思ってもいる」 アジア勢の「4.5」枠にはサッカーの全世界的な普及を掲げるFIFA(国際サッカー連盟)の思惑、特に世界最大の人口を誇る中国やオイルマネーで潤う中東における潜在人気を掘り起こすマーケット戦略も込められている。しかしながら、他の大陸連盟からは決まってこんな不平不満が漏れてきていた。「アジア大陸の出場枠は多すぎるのではないか」。 ブラジル大会でベスト16に進出したチームの大陸ごとの内訳はヨーロッパが「6」、南米が「5」、北中米カリブ海が「3」、アフリカが「2」となっている。大挙して押し寄せているサポーターの熱狂的な声援を背に快進撃を続ける南米勢、進境著しい北中米カリブ海からが出場枠のアップを望む声が上がっても決して不思議ではない。 前出の水沼氏も「決してアジア枠を減らしたほうがいいと言っているわけではない」とデリケートな問題だと断った上で、今後の流れをこう推測する。「今回の結果では、議題に上がってもおかしくないのではないか。一人の日本人として、そしてサッカー界に携わる者として、アジアの出場枠が減らされることは非常に困る。ワールドカップに出場し続けて、そこで経験を積んで伸びていくのがベストであることはあらためて言うまでもないが、13か国が出場した中で6チームしか残っていないヨーロッパよりもアジアを、という流れになる恐れはあると思う」。