なぜW杯でアジア勢はひとつも勝てなかったのか
出場国数が現在の「32」に増えた2002年大会以降、アジア大陸には「4.5」の出場枠が与えられてきている。2002年以降の4大会では延べ16か国が10勝13分け32敗の成績を残し、日本と韓国が2度ずつ決勝トーナメントに進出している。しかし、開催国の恩恵を受けた2002年大会の日韓両国の成績(5勝3分け3敗)を差し引けば、実はアジア勢全体の成績はそれほど大きな変化を遂げていない。 実力的に横ばいのところへ出場枠が増えれば、ワールドカップ切符獲得をかけたシビアな戦いが必然的に減少する。アジア最終予選を戦った日本の軌跡を比べても、波乱万丈に富んだ戦いの末に「ジョホールバルの歓喜」にまで至ったフランス大会時(出場枠3.5)と、危なげなく突破を果たした2006年のドイツ大会以降とでは大きく様相が異なっている。 これが例えば10か国で争われる南米予選となると、弱肉強食を掟として壮絶なるサバイバル戦が繰り広げられてきた。今大会は開催国のブラジルが参加していないが、それでも南アフリカ大会でPK戦の末に日本を破り、ベスト8に進出したパラグアイは敗退を余儀なくされ、4位に入って古豪復活をアピールしたウルグアイもヨルダンとの大陸間プレーオフに回った末にようやく出場権を獲得している。 3大会続けて南米予選で敗退を喫した間に、悔しさを糧にして力を蓄えてきたコロンビアの快進撃はむしろ必然でもあった。王者スペインを蹴散らして決勝トーナメントに進出したチリは南アフリカ大会に続く出場だが、2002年、2006年の両大会への出場を逃してきている。 ワールドカップの大陸予選に代表される、魂をすり減らすような真剣勝負の繰り返しが代表チームと選手たちの心身をたくましく成長させると水沼氏は指摘する。「選手たちの経験値を上げるという部分では、ギリギリの戦いを勝ち上がっていくことでレベルを上げ、厳しい環境の中で意識を変えていくことも必要なのかなとも思う。例えば南米予選という厳しい戦いを常に強いられてきた歴史と、それらを乗り越えてきたチームが今大会でも勝ち上がっていることは決して無関係ではないと思う。コスタリカの快進撃で注目されている北中米カリブ海のレベルも年々上がっていて、グループリーグで開催国ブラジルを苦しめ、決勝トーナメント進出を決めているメキシコも北中米カリブ海では4位に甘んじ、ニュージーランドとの大陸間プレーオフに回らざるを得なかった」